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日本社会

定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな治安状況

2025年3月5日(水)11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

分子の刑法犯認知数は発生地に基づくものなので、犯罪を誘発する行為環境(盛り場等)の問題と思われるかもしれない。だが23区の犯罪率は、娯楽施設の数のような指標とは相関していない。強く相関しているのは、住民の富裕度だ。横軸に1世帯あたりの住民税課税額、縦軸に先ほど計算した犯罪率をとった座標上に、都内23区のドットを配置すると<図2>のようになる。

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一見して分かる通り、右下がりの傾向が見られる。住民税の支払いが多い、つまり富裕度が高い区ほど犯罪率は低い傾向だ。相関係数はマイナス0.7305と、絶対値がかなり高い。

貧困と犯罪の相関(因果)は分かりやすい。最近、若者の間で生活困窮による闇バイトへの加担が増えているというが、直近のデータだと<図2>の相関関係はもっと明瞭かもしれない。犯罪防止の取り組みとしては、行為を誘発する有害環境の浄化と同時に、当人の生活態度を不安定化させる要因も除かなければならない。生活困窮(貧困)は、その最たるものだ。

犯人の居住地に基づく検挙事件数で犯罪率を出したら、社会経済指標との相関がより強く出るだろう。発生地主義の統計とは異なり、当人の生活環境の問題を析出する上での手がかりにもなり得る。こちらの統計も整備することが望まれる。

<資料:警視庁『区市町村の町丁別、罪種別及び手口別 認知件数』(2020年)
    総務省『国勢調査』(2020年)
    『東京統計年鑑』(2021年)

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