最新記事
動物愛護

干ばつに揺れるナミビア...政府の野生動物殺処分計画が激しい反発を呼ぶ理由

'Cruel' Plan To Kill 850 Wild Animals Condemned by PETA

2024年9月10日(火)15時30分
トム・ヘイワース
「動物をスケープゴートに...」ナミビアの干ばつ対策にPETAが警鐘(写真はイメージです) Chris Christensen-Unsplash

「動物をスケープゴートに...」ナミビアの干ばつ対策にPETAが警鐘(写真はイメージです) Chris Christensen-Unsplash

<ナミビア政府が深刻な干ばつ対策の一環として、野生動物の殺処分計画を実施中。PETAをはじめとする動物保護団体は、計画の残虐性と効果の欠如を非難している>

過去数十年で最悪の干ばつに見舞われ、人間と野生動物の対立が激化するナミビアで、政府主導による野生動物の殺処分が始まり、物議を醸している。この殺処分によって、すでに150頭以上が殺され、さらにゾウ、シマウマ、カバを含む700頭以上が処分される予定だ。

ナミビアの環境・林業・観光省が8月26日に発表した殺処分計画は、広範な干ばつ救済政策の一環として、地元民に狩猟肉を提供することを目的としている。また、放牧圧を減らし、利用できる水の量を増やすことも目的だ。

しかしこの計画は、動物愛護団体から強い反対を受けている。「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA:People for the Ethical Treatment of Animals)」は、この殺処分計画は近視眼的で、効果がなく、残酷であると批判した。PETAのシニア・バイスプレジデントを務めるジェイソン・ベイカーは、ナミビア首相宛ての公開書簡の中で、この計画は、野生動物の個体数に壊滅的な打撃を与える可能性がある、と警告した。

「たとえ数頭でも(ゾウを)殺すと、群れ全体が壊滅的な打撃を受け、混乱が生じる可能性がある。生き残ったゾウの死亡率が上昇し、ストレスを感じたゾウが、人間と動物の対立を悪化させる危険性もある」とベイカーは書いた。

本誌は、ナミビアの環境・林業・観光省に対して、ウェブサイトを通じてコメントを求めた。

生態系への悪影響の懸念も

PETAはナミビア政府を、長期にわたる戦略的解決策を必要とする、より広範な問題のために、野生動物をスケープゴートにしていると批判する。PETAは、人獣共通感染症のリスクなど、殺処分がもたらすいくつかの意図せぬ結果についても懸念を表明した。

「新型コロナウイルス、SARS、HIV、エボラ出血熱、その他の人獣共通感染症は、野生動物を屠殺し食用にすることの危険性を世界に示した」とベイカーは述べた。

さらに、淘汰によって、壊れやすい生態系が崩れることも懸念されている。「どの種も、生態系において重要な役割を果たしているため、これらの動物の殺処分は、バランスを崩し、苦しみを悪化させる可能性がある」とベイカーは付け加えた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中