「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策

OPPORTUNIST SUPREME

2024年7月5日(金)17時18分
広野真嗣(ノンフィクション作家)

newsweekjp_20240704050429.jpg

2007年の第1次安倍内閣では女性初の防衛大臣に抜擢された KOICHI KAMOSHIDA/GETTY IMAGES

人々の不安や不満のくすぶりを感じ取るや、たちまち発信の材料に変える瞬発力。これこそが小池の真骨頂である。

ちなみに、この21年正月の世界的な大ニュースといえば、1000人以上のドナルド・トランプ米大統領(当時)の支持者が米連邦議会議事堂を襲撃した事件だ。暴力的な混乱で選挙結果を覆そうとするなど正気の沙汰ではないが、これまでもトランプは自国凋落への不安をあおり、支持を調達してきた。


人々の不安を糾合して政治の中枢に要求を突き付ける構図に着目すると、日米の2人のポピュリストが実によく似ていることに気付かされる。

注目される小池の発信は、「行き当たりばったり」であることも少なくない。それが逆風を食らうこともあるが、むしろその逆風に向き合ってから見せた「もう1つの力」に触れておきたい。

音楽ならば音符でなく休符のように、沈黙が効果を持つことがある。発信する力を持つ小池が、沈黙する力についてである。

「排除します」──。17年9月、近づく解散総選挙に向けて、希望の党への合流を希望する民進党系の立候補予定者について、小池が安全保障観を軸に選別する、という趣旨で発言したこの一言が、世論の反感を呼んだ。

小池への期待は、一転、急激に収縮。そして希望の党は選挙で惨敗を喫することになる。

「沈黙する力」でカムバック

小池はこの自爆で、国政で再び勇躍する最大のチャンスを逸した。当時、小池に接した都庁幹部は、「失意で倒れるんじゃないかと思った」と語った。落胆のせいか、その後、小池は静かになった。強烈な発信も控えた。

そして驚くべきことに、その沈黙はその後の丸2年余り、コロナの流行前まで続いたのである。

朝日新聞の1面記事を16年7月からめくってみると、最初の1年は、小池の報酬半減の方針、豊洲移転や東京五輪の会場の見直しに関する発信や報告が毎月、時には毎週のように1面を飾っている。

これに対して総選挙の17年10月以降コロナまでは、選挙総括や党首交代のニュースを除けば、小池による「攻めの発信」が1面を飾ったことは一度もない。

見逃せないのは、それで政治力がついえるかと思いきや、事実は逆だったことだ。

確かに17年4月に74%あった支持率は、騒動後の18年7月は49%にまで落ち込んだ(いずれも朝日新聞)。しかし、20年初めからのコロナ禍で人々の不安が膨らむのを感じ取り、持ち前の発信力に再び火を入れた。

迎えた7月の都知事選では、歴代2位の366万票という圧倒的な得票を得て再選。21年6月の支持率は57%にまで回復している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中