「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策

OPPORTUNIST SUPREME

2024年7月5日(金)17時18分
広野真嗣(ノンフィクション作家)
「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策

東京都知事選が告示され、出発式に登場した小池(6月20日、東京都新宿区) SOICHIRO KORIYAMA FOR NEWSWEEK JAPAN

<7月7日に迫る都知事選、3選にひそむ落とし穴。大衆の敵を作り出し、ワンフレーズで局面を変える...小池劇場の終わりの始まり>

「こんなひどいの、初めて」──。

街宣車の屋根から降りてきた現職の東京都知事、小池百合子が車椅子の男の耳元に曇った顔を近づけてそう言った。それは今、与野党対決の構図で行われている知事選の2カ月前、4月の衆議院東京15区(江東区)補選でのことだ。

耳打ちされた男は、この補選に挑んだ作家で政治団体「ファーストの会」副代表の乙武洋匡である。


乙武と小池という組み合わせは、この補選で誕生した新しいコンビだ。片や乙武は、『五体不満足』が累計発行部数600万部という記録を打ち立てたベストセラー作家で、元都教育委員でもある。

小池は、乙武を擁立した地域政党「都民ファーストの会」(都民ファ)の特別顧問。昨年、豊島区長選や江東区長選で小池カラーの候補を当選させ、都知事選も優勢は揺るがない。

鬼に金棒の乙武だったが、ふたを開けてみれば、1万9655票の5位に沈んだ。冒頭の街頭演説で2人を苦しめていたのは、醜悪な選挙妨害パフォーマンスをネット発信する「つばさの党」(代表・黒川敦彦)だ。

小池が都知事3選への出馬表明をした6月12日、私は乙武自身にインタビューの機会を得て、何が起きていたかを聞いた。

「過去2人の逮捕者を出し注目の選挙区となったせいか、1人の枠に対して立候補者が異例の9人にも上った。このことに有権者には〈選挙区をおもちゃにするな〉という憤りがあったと思います」

つばさの大音量の罵声によって演説が聴衆の耳に届かないばかりか、その場にいる者に激しい嫌悪感をもたらした、と乙武が続ける。

「つばさの敵対対象の一番手が私で、政治的に大きな看板を背負う小池さんも加わって騒ぎは大きくなった。そのことで、(こちらは)被害者なのに〈荒らしに来た側〉というカテゴリーに見なされた面はあるかと思います」。それでも、小池の力強さを改めて痛感したというのである。

「妨害を避けて連日、選挙カーに乗って1日3時間も区内を回るんですが、歩道からこちらに目を向けた人が小池さんに気付いたとき、とりわけ中高年女性からは『会えてうれしい』という反応が返ってきた」

「ハイ、水分補給」

乙武と小池の最初の接点は、昨年8月にスタートした都民ファの政治塾「ファースト政経塾」だった。ゲスト講師として乙武を2度招き、今年2月に出馬を打診している。

「かつては豊洲市場移転の見直しのやり方など、有権者としてはあまり小池さんを評価できませんでした。しかし、この2年ほどの都の政策を見ているうち、アレ?と思うことが増えた」と乙武は語る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

英インフレ期待上昇を懸念、現時点では安定=グリーン

ビジネス

アングル:トランプ政権による貿易戦争、関係業界の打
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中