「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策

OPPORTUNIST SUPREME

2024年7月5日(金)17時18分
広野真嗣(ノンフィクション作家)

newsweekjp_20240704050403.jpg

2016年にスタートした小池都政は、数々の逆風にさらされた。2017年に希望の党で惨敗した小池は、攻めを捨てて守りの期間に突入 AKIO KONーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

復活の下地には「何もしないと支持率が上がる」という都政らしい現象も重なっている。

都庁は道路や公園の整備・管理から福祉に至るまで26もの局を持ち、16兆円もの予算を動かす巨大官庁だ。しかもインフラや五輪のようなイベントを除けば、多くは地味な実務の塊で、人々と直接対面する市区町村を財源や事務でサポートする仕事も少なくない。

新聞には都政などを報じる「都民版」のページがあるが、16兆円に対して各紙とも1ページのみ。一般的な感覚として都民が見ているのは国政であって都政ではないからだ。

国政ならば新聞の1面や政治面は当然のこと、国際面や経済面でも政策が扱われる。また、他の道府県の地方紙なら県政が日常的に1面、2面に上る。そのいずれと比べても、都政の報道量は規模のわりに少ない(ウェブの記事量もおおむねこれに比例する)。


「大過なければまあいいや」という都民の感覚を反映しているのだ。その証拠に、多額の血税で新銀行東京の累積赤字を補塡した石原都政でさえ、決定当時の08年3月に47%に下がった支持率が、翌年には52%に回復したのである。

以下は私の仮説だが、17年の騒動以降、知事の座からの転落の危機を感じた小池は必死にサバイバルの道を考え、「危ない橋は渡らない、黙っていよう」と肚(はら)を決めたのではないか。強みを捨てる、難しい判断だ。

仮説を補うように、ある元都庁幹部からは「われわれ職員との会食でも小池知事は全部割り勘ですよ。金の問題が出ないのが小池さんの一番の強み」という証言を聞いた。

高額な交際費支出で批判を浴びた石原慎太郎の反省に立ったのだろうが、何かが変だ。政治家の強みがダメージコントロール? 政策への情熱ではないのか? そう、小池は守り。もはや攻めていなかった。

考えてみると、コロナで実務を主導しないのも、質問つぶしの記者会見も、発信でなく沈黙、積極的な選択というよりは消極的な選択だ。

いずれも、「そうすることでひんしゅくを買うことがあるかもしれないが、致命傷にはならない」という計算が働いている。あえて隠蔽しなくても不都合な真実が隠れやすい都政の「地の利」を最大限に生かす。それが小池の得意技になっている。

「擦り寄る力」と3つの政策

こうした振る舞い一つを見ても、小池の2期8年は盤石でも安泰でもなかった。もちろん知事は4年の任期中は辞めさせられないが、議会に与党を形成できなければ予算も通せない。与党から首相が出る議院内閣制とは、そこが異なる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中朝首脳、国交樹立75年で祝電 関係強化を表明

ワールド

仏大統領、ガザで使用の武器禁輸呼びかけ イスラエル

ワールド

世界各地で反戦デモ、10月7日控え ガザ・中東戦闘

ビジネス

中国住宅販売、国慶節連休中に増加 景気刺激策受け=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる
  • 2
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 3
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシア製よりはるかにスマート
  • 4
    野原の至る所で黒煙...撃退された「大隊規模」のロシ…
  • 5
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 6
    新NISAで人気「オルカン」の、実は高いリスク。投資…
  • 7
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 8
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 9
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 10
    職場のあなたは、ここまで監視されている...収集され…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 7
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 8
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中