イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの

IRAN EXAMINES THE NUCLEAR OPTION

2024年6月27日(木)12時40分
トム・オコナー(外交・中東担当)

イランは既に中東では最多のミサイルとドローンを保有し、「抵抗の枢軸」と連携している。「抵抗の枢軸」とは、アメリカのジョージ・W・ブッシュ元大統領がイラク戦争前にイラン、イラク、北朝鮮を名指しした「悪の枢軸」に対抗してつくられた言葉で、大部分が非国家武装勢力という前例のないネットワークだ。この2つが、信頼し得る抑止力を確立しようというイランの数十年来の取り組みの核となってきた。

そんな状況が変わりつつあるのかもしれないとアインホーンは指摘する。「いくつかの進展がイランのエリート層の核兵器に対する賛成意見の一部を裏付けてきた」


「彼らはこれまで自国の従来型抑止力と代理勢力からの支援が十分な抑止力になると感じてきた。だが現在は、イランは今年4月の初の直接交戦が示すようにイスラエルから、ひょっとするとアメリカからも直接攻撃されかねない状況にある」

そしてアインホーンは別の見方を示した。「イランは以前は地域戦略がうまくいき、影響力を拡大し、敵を抑止していると感じていたかもしれないが、今ではアメリカがイスラエルや、もしかするとサウジアラビアなど湾岸諸国やエジプトも含めた有志連合を模索しているというものだ。イランと代理勢力に対抗するための連合だ」

だが近年、他の中東の国々の多くはイランとの戦略的競争にもかかわらずイランとの関係改善を選んでいる。アインホーンが注目しているのはイランの核のメッセージのもう1つの効果──他の国々が追随する可能性だ。特にサウジアラビアは核開発強化に興味を示し、エジプトとトルコにもその兆しが見られる。

国連軍縮研究所の元研究員サベットも同様の結論に達した。「イランの核実験強行を受けて他の中東諸国も核兵器国産をより真剣に考えるようになり(欧米の根強い抵抗は必至だが)、国際的な核不拡散体制にとって重大な課題となるはずだ」

「後戻りできないレベル」に

結局、イランの核開発の結果は確立される抑止力次第かもしれないとサベットは言う。

「地域の力の均衡(バランス・オブ・パワー)はイラン有利にシフトするはずだ。イランが今後も存亡の危機──少なくとも外交など他の方法では解決できない深刻な問題──に直面していると信じ続けるなら、敵に対する攻撃はより強く、よりあからさまになるだろう。一方、アメリカと中東の反イラン勢力の一部がイランとの合意を受け入れれば、中東情勢はいくらか安定し、解決困難だった問題が進展する可能性もある」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中