最新記事
ジョージア

再提出された「スパイ防止法案」に市民が反発...「ロシアとの関係強化」を目論むジョージア与党の狙いとは?

HOW GEORGIA SIDED WITH ITS ENEMY

2024年5月16日(木)16時30分
アニ・チキクワゼ(ジョージア人記者、米ワシントン在住)
「スパイ防止法案」に抗議するジョージアの市民 REUTERS/Irakli Gedenidze/File Photo

「スパイ防止法案」に抗議するジョージアの市民 REUTERS/Irakli Gedenidze/File Photo

<ロシア式の「スパイ防止法案」に市民が抗議。2度も侵攻された過去を帳消しにして、ロシアとの関係強化を探る与党の狙い>

旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)の首都トビリシ。議事堂に近い石畳の通りを埋めたデモ参加者に、感情を押し殺したロボットのような女性の声が淡々と告げる。「解散しなければ拘束します」。デモの目的は、与党「ジョージアの夢」が「外国の代理人」法案を改めて提出したことへの抗議だ。

【動画】「スパイ防止法案」に抗議するジョージアの市民

この法案は、予算の20%以上を外国からの資金に頼るNGOやメディアに、「外国の影響力を担う代理人」としての登録を義務付けるもの。つまり「スパイ防止法」だ。

与党は約1年前にも同じ法案の成立を目指したが、大規模な抗議デモが起きたため、いったん取り下げた。だが再び法案が提出されたことで、同様の法律によって反体制派を弾圧しているロシアとの関係強化につながることを懸念する市民が、数万人規模のデモを行っている。

これまで与党・ジョージアの夢は、市民の不安をあおり、分裂状態にある野党を中傷し、西側の同盟諸国と外交的な駆け引きをすることで政権を維持してきた。しかし以前は成功した戦略も、今は効力を失ってきたようだ。2012年以来、3期連続で政権を維持する同党への反発は国内外で強く、今年10月の議会選挙では敗北する可能性もある。

ジョージア政府は、ロシアと西側諸国の間で慎重にバランスを取ってきた。だがロシアがウクライナに全面侵攻したことで、均衡が崩れた。

ロシアの侵攻開始からの2年間、数十万人のジョージア国民がロシアと自国政府に抗議してデモを行ってきた。トビリシでは至る所に「くたばれプーチン」「ロシアは占領者」「ジョージアはウクライナと共にある」といったメッセージが見られ、銀行からバーまであらゆる建物にウクライナ国旗が掲げられている。

だがウクライナ戦争は、ジョージアの夢が国民の恐怖心をあおり、政治的利益を得るためにも利用されている。ジョージアではロシアとの戦争の記憶が新しく、今も国土の20%はロシア軍に占領されている。

12年、ビジナ・イワニシビリは、08年のロシアとの戦争について首相の責任を追及し、自分ならロシア政府と安定した関係を築けると訴えて、後継首相となった。ロシアで富を築いた大富豪のイワニシビリは、現政権でも陰の実力者だというのが大方の見方だ。13年に彼は「近隣諸国の征服と占領」はロシアの戦略ではないとの見方を示したが、ジョージア自体、ロシアに2度も侵攻されている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中