再提出された「スパイ防止法案」に市民が反発...「ロシアとの関係強化」を目論むジョージア与党の狙いとは?
HOW GEORGIA SIDED WITH ITS ENEMY
ウクライナ戦争は与党に新たなチャンスをもたらした。侵攻が始まった後、ジョージアの夢は野党を「戦争の党」とこき下ろし、ジョージアがこの戦争に巻き込まれるよう圧力をかけたとして米大使や西側諸国を批判。ウクライナ政府に対しても、ジョージアを戦争に引きずり込もうとしていると非難した。
政府が語らないロシアの蛮行
ジョージアとウクライナの関係は、ジョージアのミハイル・サーカシビリ元大統領の逮捕をめぐって既に緊張状態にあった。サーカシビリはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領から要職に任命されたが、祖国ジョージアに帰国した際に職権乱用を理由に逮捕された。両国の関係はかつてないほど冷え込んだ。
「ウクライナ政府はジョージアに第2の戦線を開き、公然とジョージアをこの紛争に巻き込もうとしている」。22年9月、ジョージアの夢の党首で現在は首相のイラクリ・コバヒゼは、そう指摘した。ジョージアの夢が繰り返している主張だ。
このメッセージは国民にじわりと浸透している。「ジョージアの夢は、こうした(不安をあおる)戦略によって政権を握った」と、イリア国立大学(トビリシ)のギア・ノディア教授(政治学)は言う。「彼らの主張は、元大統領のサーカシビリが勝てばロシアとの緊張が高まるというものだった。自分たちが勝利すればロシアとの問題に対処すると約束し、一貫してそう主張している」
ジョージア国民は、本心では政府の言い分に納得していない。世論調査では、国民の87%がウクライナ戦争をひとごとではないと捉えている。
ウクライナでのロシア軍の残虐行為を示す画像や映像が呼び起こすのは、アブハジアと南オセチアの紛争でのロシア兵による戦争犯罪の記憶だ。この2つの紛争では少なくとも5000人のジョージア人が死亡し、20万人以上が避難を余儀なくされた。
筆者は昨年後半、ウクライナの首都キーウで、同国の与党「国民の公僕」のデビッド・アラカミア議員に会った。アラカミアはジョージア出身で、若い頃にアブハジア紛争から逃れ、難民となってウクライナに渡った。ジョージアの夢は、彼を中傷の的にしている。
「ジョージア政府は、ロシアがジョージアで何をしたか、どれだけの人が死んだかを一切語らない」と、アラカミアは言う。「ロシアは侵略者だ。ジョージアもウクライナも、ロシアに侵略されたことを言わずしてどうする」