最新記事
ジョージア

再提出された「スパイ防止法案」に市民が反発...「ロシアとの関係強化」を目論むジョージア与党の狙いとは?

HOW GEORGIA SIDED WITH ITS ENEMY

2024年5月16日(木)16時30分
アニ・チキクワゼ(ジョージア人記者、米ワシントン在住)

newsweekjp_20240515025240.jpg

獄中にいるサーカシビリ元大統領の釈放を求める人々(ロンドン、昨年2月) VUK VALCICーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

ウクライナ戦争は与党に新たなチャンスをもたらした。侵攻が始まった後、ジョージアの夢は野党を「戦争の党」とこき下ろし、ジョージアがこの戦争に巻き込まれるよう圧力をかけたとして米大使や西側諸国を批判。ウクライナ政府に対しても、ジョージアを戦争に引きずり込もうとしていると非難した。

政府が語らないロシアの蛮行

ジョージアとウクライナの関係は、ジョージアのミハイル・サーカシビリ元大統領の逮捕をめぐって既に緊張状態にあった。サーカシビリはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領から要職に任命されたが、祖国ジョージアに帰国した際に職権乱用を理由に逮捕された。両国の関係はかつてないほど冷え込んだ。

「ウクライナ政府はジョージアに第2の戦線を開き、公然とジョージアをこの紛争に巻き込もうとしている」。22年9月、ジョージアの夢の党首で現在は首相のイラクリ・コバヒゼは、そう指摘した。ジョージアの夢が繰り返している主張だ。

このメッセージは国民にじわりと浸透している。「ジョージアの夢は、こうした(不安をあおる)戦略によって政権を握った」と、イリア国立大学(トビリシ)のギア・ノディア教授(政治学)は言う。「彼らの主張は、元大統領のサーカシビリが勝てばロシアとの緊張が高まるというものだった。自分たちが勝利すればロシアとの問題に対処すると約束し、一貫してそう主張している」

ジョージア国民は、本心では政府の言い分に納得していない。世論調査では、国民の87%がウクライナ戦争をひとごとではないと捉えている。

ウクライナでのロシア軍の残虐行為を示す画像や映像が呼び起こすのは、アブハジアと南オセチアの紛争でのロシア兵による戦争犯罪の記憶だ。この2つの紛争では少なくとも5000人のジョージア人が死亡し、20万人以上が避難を余儀なくされた。

筆者は昨年後半、ウクライナの首都キーウで、同国の与党「国民の公僕」のデビッド・アラカミア議員に会った。アラカミアはジョージア出身で、若い頃にアブハジア紛争から逃れ、難民となってウクライナに渡った。ジョージアの夢は、彼を中傷の的にしている。

「ジョージア政府は、ロシアがジョージアで何をしたか、どれだけの人が死んだかを一切語らない」と、アラカミアは言う。「ロシアは侵略者だ。ジョージアもウクライナも、ロシアに侵略されたことを言わずしてどうする」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB担保評価、気候リスクでの格下げはまれ=ブログ

ワールド

ジャカルタのモスクで爆発、数十人負傷 容疑者は17

ビジネス

世界の食料価格、10月は2カ月連続下落 供給拡大で

ビジネス

ホンダ、半導体不足打撃で通期予想を下方修正 四輪販
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中