最新記事
ジョージア

再提出された「スパイ防止法案」に市民が反発...「ロシアとの関係強化」を目論むジョージア与党の狙いとは?

HOW GEORGIA SIDED WITH ITS ENEMY

2024年5月16日(木)16時30分
アニ・チキクワゼ(ジョージア人記者、米ワシントン在住)

「そもそもジョージアは(ロシアと)戦争状態にあるのでは?」と言うのは、ゼレンスキーの顧問を務めるミハイロ・ポドリャク。筆者が話を聞いたウクライナ大統領府内の彼のオフィスでは、ぶら下がったサンドバックが窓を覆っていた。「アブハジアと南オセチアはロシアに占領されているのではないのか。(ジョージアは)自由か独裁、いずれかにある。現実は白か黒かだ。グレーなどない」と、ポドリャクは断言した。

西側を悪者にする与党の戦略

ロシアのウクライナ侵攻後、多くのロシア人が隣国ジョージアに押し寄せた。ロシア政府が部分動員令を発令すると、数はさらに増えた。人口370万人のジョージアに避難したロシア人は11万2000人に上ったとも報じられ、多くが今後もジョージアにとどまる見込みだ。

ロシア人の一斉流入に、ジョージア国民は不安を募らせている。不安の根底にあるのは恐怖だ。ロシアが08年のジョージア侵攻時に掲げた大義は「ロシア系住民の保護」だったからだ。最新の世論調査によれば、ジョージア国民の69%がロシア人の入国にはビザの取得を課すことを支持しており、78%が国内でのロシア人の起業や不動産購入を許可すべきではないと考えている。

08年には、多くのジョージア国民が西側に見捨てられたと感じた。この年、ジョージアとウクライナのNATO加盟がドイツとフランスの反対によって認められなかった。数カ月後、ロシアの戦車がジョージアになだれ込む。戦争終結後、当時の米オバマ政権は悪化したロシアとの関係を「リセット」すると宣言した。

そのバラク・オバマが大統領再選を決めた12年、ジョージアの夢が政権を獲得した。西側がロシアとの関係改善を試みるなか、親ロ派の同党は米政府の一部から好意的に受け止められた。

これに乗じて、ジョージア政府は戦略的に曖昧な立場を取ることができた。親欧米派が大半である国民をつなぎ留めるために表向きは西側との協力関係を維持し、国内向けには戦争の可能性と、欧米との関係について不安をあおった。

さらにジョージア政府は国民の支持を受けるジョージア正教会と手を組んで、民主活動家を悪者に仕立て上げ、保守派の有権者にアピールした。一方で極右の代理組織を利用することで、自らはもっと穏健なイメージを西側諸国に対して打ち出した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中