再提出された「スパイ防止法案」に市民が反発...「ロシアとの関係強化」を目論むジョージア与党の狙いとは?
HOW GEORGIA SIDED WITH ITS ENEMY
「そもそもジョージアは(ロシアと)戦争状態にあるのでは?」と言うのは、ゼレンスキーの顧問を務めるミハイロ・ポドリャク。筆者が話を聞いたウクライナ大統領府内の彼のオフィスでは、ぶら下がったサンドバックが窓を覆っていた。「アブハジアと南オセチアはロシアに占領されているのではないのか。(ジョージアは)自由か独裁、いずれかにある。現実は白か黒かだ。グレーなどない」と、ポドリャクは断言した。
西側を悪者にする与党の戦略
ロシアのウクライナ侵攻後、多くのロシア人が隣国ジョージアに押し寄せた。ロシア政府が部分動員令を発令すると、数はさらに増えた。人口370万人のジョージアに避難したロシア人は11万2000人に上ったとも報じられ、多くが今後もジョージアにとどまる見込みだ。
ロシア人の一斉流入に、ジョージア国民は不安を募らせている。不安の根底にあるのは恐怖だ。ロシアが08年のジョージア侵攻時に掲げた大義は「ロシア系住民の保護」だったからだ。最新の世論調査によれば、ジョージア国民の69%がロシア人の入国にはビザの取得を課すことを支持しており、78%が国内でのロシア人の起業や不動産購入を許可すべきではないと考えている。
08年には、多くのジョージア国民が西側に見捨てられたと感じた。この年、ジョージアとウクライナのNATO加盟がドイツとフランスの反対によって認められなかった。数カ月後、ロシアの戦車がジョージアになだれ込む。戦争終結後、当時の米オバマ政権は悪化したロシアとの関係を「リセット」すると宣言した。
そのバラク・オバマが大統領再選を決めた12年、ジョージアの夢が政権を獲得した。西側がロシアとの関係改善を試みるなか、親ロ派の同党は米政府の一部から好意的に受け止められた。
これに乗じて、ジョージア政府は戦略的に曖昧な立場を取ることができた。親欧米派が大半である国民をつなぎ留めるために表向きは西側との協力関係を維持し、国内向けには戦争の可能性と、欧米との関係について不安をあおった。
さらにジョージア政府は国民の支持を受けるジョージア正教会と手を組んで、民主活動家を悪者に仕立て上げ、保守派の有権者にアピールした。一方で極右の代理組織を利用することで、自らはもっと穏健なイメージを西側諸国に対して打ち出した。