最新記事
米政治

トランプ前政権を分析してわかった対中制裁「想定外の影響」...60%超の関税は実現不可能?

CHINA-US TRADE WAR 2.0

2024年3月9日(土)17時15分
ジャーチェン・シー

農家の反対とトランプの本音

対中貿易戦争が共和党に及ぼす政治的影響がはっきり表れたのは、制裁関税が発動されてから数カ月後に行われた2018年の中間選挙だ。この選挙では多くの共和党候補が敗北。トランプは自分を支持しないから負けたのだと決め付けたが、調査結果を見ると敗因はそれではない。

共和党候補の得票率が低下したのは、中国の報復措置の影響を受けた製造業と農業部門に雇用を大きく依存している地域だ。特に、2016年の大統領選で共和党と民主党の支持率が伯仲した「激戦区」では、こうした傾向が顕著だった。

トランプは対中制裁が自身や共和党にマイナスの影響を与えたことを表向きには決して認めなかったが、その行動からは本音がうかがえる。最も顕著な例は、農家に対する大型支援策だ。貿易戦争で直接的な被害を受けた農家は、トランプの支持基盤の重要な一角を成す層でもある。

だがこの支援策は米政府の財政赤字を大幅に悪化させただけで、共和党候補へのテコ入れにはほとんど役立たなかった。

世論調査を見ると、今年の大統領選に向けては多くの農家がトランプ支持を表明しているが、過去の選挙を振り返ればトランプ支持と自称する人が必ずしも共和党候補に投票するとは限らない。

いい例が貿易戦争で最も被害を受けた地域の1つ、アイオワ州。同州の共和党支持の農家は、対中貿易摩擦が再燃するとしてもトランプの返り咲きを支持すると言っている。だが2018年の下院選ではアイオワ州の共和党は2議席を失い、民主党との力関係が逆転した。

このように再び米中貿易戦争が起きれば、トランプ以上に共和党議員が割を食う。そのため農業州の多くの共和党議員は既に1年近く前、中国からの輸入品にさらなる追加関税を課すというトランプの提案にノーを突き付けた。

対中タカ派が多数を占める下院中国特別委員会でも、米中貿易戦争再開の可能性をめぐっては、地元の民意を気にする共和党議員が追加関税の発動に反対する数人の民主党議員とひそかに徒党を組み、今なお激論が続いている。

ヒラの議員が抑止力になる

共和党がほとんどトランプ党と化した今、公然とトランプを批判する共和党議員は少数派だ。そうであっても自分の政治家としてのキャリアとトランプへの忠誠をはかりにかければ、多くの議員が前者を取るだろう。

これを裏付ける前例がある。ビル・クリントンの政権が終わりに近づいていた2000年5月、米議会は中国に対して、通商関係における恒久的な最恵国待遇を付与する法案を可決した。地元の有権者の利益になると考えて、共和党議員の4分の3が党の結束を乱すことを恐れず賛成に回ったのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 7
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中