トランプ前政権を分析してわかった対中制裁「想定外の影響」...60%超の関税は実現不可能?
CHINA-US TRADE WAR 2.0
ILLUSTRATION BY DILOK KLAISATAPORN/SHUTTERSTOCK
<トランプが返り咲けば「米中貿易戦争2.0」が本当に始まるのか。トランプの中国いじめは自身と共和党の命取りになりかねない。 本誌「もしトラ」特集より>
今年の米大統領選の共和党予備選で、ドナルド・トランプ前米大統領は快進撃を続け、指名候補の座は約束されたようなものだ(編集部注:3月5日のスーパーチューズデーにも勝利し、党内の対立候補ニッキー・ヘイリーが選挙戦から撤退した)。
余勢を駆って、彼は高まりつつある自身の影響力を、国際社会におけるアメリカの最大のライバル、すなわち中国にも見せつけようとしている。そのために最近の中国株の大暴落はアイオワ州の党員集会で自分が勝利したせいだと根拠もなく主張するありさまだ。
そんなトランプが政権に返り咲いたら、アメリカはこれまで以上に強硬な対中政策を打ち出すだろうか。その可能性はある。
選挙戦で反中国的な発言を執拗に繰り返しているトランプがホワイトハウスに戻れば、ジョー・バイデン米大統領が進めてきた対中デタント(緊張緩和)が覆されるのではないか──そんな臆測も飛び交い始めた。広く議論されているシナリオの1つは第2次米中貿易戦争が始まる、というものだ。
しかし、第1次米中貿易戦争の後遺症と、それが共和党内にもたらした想定外の影響を詳細に検討すれば、また違った景色が見えてくる。
孤立主義者と見なされているトランプが臆面もなく貿易政策を武器にするのは皮肉な話だ。対中貿易戦争はアメリカに恩恵をもたらしたとトランプは自賛するが、実際にはデメリットのほうが大きかった。
トランプの意図とは裏腹に、中国からの輸入品に高関税をかけても米製造業は拡大せず、対中貿易赤字は縮小しなかった。懲罰的な関税の打撃を被ったのは米企業と消費者のほうだ。中国から輸入する原材料や部品が値上がりしたため、米企業の製造コストは上がり、国際競争力は低下した。
さらに悪いことに、中国はアメリカ産農産物の輸入を停止し、米製品に報復関税をかけた。これにより米製造業の下流の企業は一層苦境にあえぐことになった。どう見ても対中貿易戦争はアメリカにとってマイナスだ。米経済に与えた年間の純損失は160億ドルと見積もられている。
トランプが大統領に返り咲けば中国製品に60%超の関税を課す可能性があると、最近ワシントン・ポストが伝えたが、第1次貿易戦争で25%の関税が米経済にこれほどの大打撃を与えたのだから、それはまず考えられない。
貿易戦争の再開が米経済に打撃を与えても、トランプはどうにか支持をつなぎ留めるかもしれないが、共和党に及ぶより広い政治的ダメージは克服し難いだろう。