「感染症対策は途上国だけの問題ではない」 保健医療支援が「日本のためにもなる」理由とは?
PR
KEMRIの研究者に対する研修の様子。KEMRIの能力強化は、ケニア国内にとどまらず、周辺地域の保健医療にも貢献している
<母子保健や国民皆保険の達成など、国際協力機構(JICA)は日本の経験を生かして、世界の保健医療分野に長年貢献してきた。昨今の途上国でのユニバーサル・ヘルス・カバレッジの支援は、日本にとっても重要な学びとなっている>
病気にかかったときや事故に遭ったとき、日本人は高額な治療・入院費をあまり心配することなく病院に行くことができる。それは国民が等しく公的医療保険に加入しているからだ。
「日本は戦後、限られた財政と予算のなかで母子保健や感染症対策など、健康改善に取り組んできました。1961年には国民皆保険を実現し、世界でトップクラスの健康長寿を実現することに大きく貢献しました。そうした日本の経験を生かしながら、途上国での保健医療の支援を長年行ってきました」と、JICA人間開発部の伊藤賢一さんは語る。
2022年、新型コロナウイルス感染症流行時の教訓を生かして日本政府が打ち出したのが「グローバルヘルス戦略」。その政策目標の一つが、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人が経済的困難をこうむることなく質の高い保健医療サービスを受けられること。 以下、UHC)だ。「SDGs策定においても、当初は『UHCは手段であり目的ではない』『UHCに向けた前進を定量的に測定することは困難ではないか』といった反対意見があるなか、日本は各国に働きかけ、UHCをSDGsのターゲットの一つとすることに貢献したのです」と伊藤さん。
「JICAは長年、アフリカ諸国で病院をはじめとする医療施設の建設や人材育成など、質の高い医療サービスを提供することに貢献してきました。ですが、実際には貧困層は目の前に医療機関があってもお金がなく利用することができないという課題がありました」と、途上国でのUHC達成支援に20年以上携わるJICA国際協力専門員、戸辺誠さんが指摘する。
「そのため保健医療サービスの質の向上とともに、医療保障制度を整備すること。その両輪の支援にシフトしてきました」
西アフリカのセネガルでは、2010年代から大統領をはじめ政府が主導し、医療保障制度の改善とコミュニティ健康保険の導入への取り組みがスタート。特に健康保険料が払えない最貧困層240万人には政府が保険料を全額補助することにした。しかしながら、それを実現するには年間36億円が必要だった。
「セネガル政府からの要請を受け、JICAは84億円の開発政策借款(両政府が合意した政策アクションが達成されたら貸付資金を支払うという支援方式)と技術協力の2本立てで支援しました。結果、貧困層の健康保険加入者数は15年の19万人から19年には114万人に増加。そして僻地で看護師と助産師を両方配置する医療機関は、41%(315か所)から80%(614か所)まで上昇し、現在も維持できています」と戸辺さん。
また、JICAの保健医療分野の協力の歴史を語るうえで外せないのがケニアだ。伊藤さんはこう振り返る。
「1960年代から協力を継続しています。初期は病院への協力を、70年代後半からはケニア中央医学研究所(KEMRI: Kenya Medical Research Institute)で感染症対策分野の協力を行っています。2000年代以降は保健システム分野への協力を実施し、技術協力と無償資金協力に加え、セネガル同様に開発政策借款も組み合わせて、UHC達成支援を実施しています」