「感染症対策は途上国だけの問題ではない」 保健医療支援が「日本のためにもなる」理由とは?
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こうした途上国への保健医療分野の協力について「日本のためにもなる」と戸辺さんは語る。「新型コロナによるパンデミックが記憶に新しいですが、これだけ人の往来が激しい現代では感染症は一国の問題ではありません。地域間の医療格差の是正に取り組むことで世界情勢も安定します。一方、途上国では限られた財源を有効に活用するため、医療保障制度でどのような治療法や薬をカバーするかという選択を、科学的知見を活用して実施する『医療技術評価』の仕組みが発達しています。日本にとって途上国の事例から学ぶことはたくさんあるのです」
ブラジルのヘルステック企業に、JICAが直接出資!
JICAは民間企業連携を通じたUHCへの貢献にも取り組んでいる。その一つがブラジルのヘルステック企業への直接出資だ。
ブラジルには国民皆保険制度(SUS)が存在するが、恒常的な財政赤字により適切に機能しておらず、十分な医療を受けられない低中所得者層が1億人以上存在するといわれている。2011年創業のドトル・コンスルタ社は、低中所得者層が物理的・価格的にアクセスできる医療サービスの実現を目指し、サンパウロで28か所の医療クリニックとオンラインサービスを展開。自社開発したAIアルゴリズムを駆使し、効率的な医療オペレーションを実現している。これにより医療費を下げるとともに、待機時間を短縮。JICAの出資金は医療機器の購入など設備投資に充てられ、同社の取り組みをいっそう拡大させる後押しをする。
伊藤賢一さん(ITO Kenichi)
●JICA人間開発部 次長
1997年JICA入構。医療協力部、アジア第一部、タイ事務所、人間開発部、東京センターなどを経て、2020年8月より現職。UHC、保健システム強化、感染症対策を担当。
戸辺 誠さん(TOBE Makoto)
●JICA国際協力専門員
途上国におけるUHCの達成支援の実践と研究に20年以上従事。2015年より現職。アジア、アフリカ、ラテンアメリカにおいてUHCに関するODAの事業形成や効果研究を実施中。
※所属先は取材当時のもの
※日本が1954年に政府開発援助(ODA)を開始してから今年で70年。「人づくり」や「人間の安全保障」を追求してきた日本の国際協力の特徴、国際協力の実施機関であるJICAが目指してきたもの、そして途上国とともに積み上げた成果や信頼関係を振り返りながら、未来の国際協力のあり方を考える。運輸交通、保健医療、公共財政、環境管理という4分野での取り組みのほか、ガーナとモンゴルそれぞれで築いた絆を当事者たちの声で紹介していく。