最新記事
タイ

「復活」へ虎視眈々だが......タイのタクシン元首相に立ちはだかる、汚職よりはるかに大きな「罪」とは?

Thaksin Legal Woes

2024年2月15日(木)18時38分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
タイのタクシン元首相

タクシンの人気と影響力は健在。右手前はぺートンタン(23年8月、バンコクの空港) VARUTH PONGSAPIPATTーSOPA IMAGESーSIPA USAーREUTERS

<「連立」政権発足で帰国を果たすも、汚職容疑よりはるかに重い不敬罪の落とし穴が>

昨夏に汚職罪などで実刑を言い渡されたタイのタクシン・シナワット元首相(74)は2月中にも仮釈放される見込みだが、一方で、王室に対する不敬罪で起訴されるかもしれない。

バンコク・ポスト紙によると、2月6日に検察庁のプラユット・ペトチャラクン報道官は記者団に対し、2016年に警察の技術犯罪制圧部が提出した告訴状に基づいてタクシンの起訴を検討していると語った。

告訴状は、タクシンが15年に韓国で受けたインタビューで、タイ王室の名誉を毀損したとする。タイでは王室批判は不敬罪として厳罰に処され、最高で懲役15年を科される。

01年から06年のクーデターで失脚するまで首相を務めたタクシンは、昨年8月に15年間の亡命生活から帰国した。空港に到着した直後に逮捕され、在任中の汚職罪などで禁錮8年を言い渡された(恩赦により1年に短縮)。その後すぐに「健康上の理由」で警察病院に入院しており、近く仮釈放申請の条件を満たす。

プラユットによると、タクシンは不敬罪と関連するコンピューター犯罪の容疑について否定している。さらに、仮釈放後は警察に拘束されるかもしれないが、法務長官が起訴するかどうかを検討する間、一時的に釈放される可能性があるという。

タクシンは政治的に復権しつつある

昨年5月の下院総選挙後に、タクシンの次女ペートンタンが率いるタイ貢献党が国軍系の政党と連立政権を組んで以来、タクシンは政治的に復権しつつある。選挙で第1党になったのは民主派の前進党だが、国軍に指名された上院の保守系議員によって連立協議から排除された。

貢献党が保守派および軍部と手を組んで政権に復帰したことは、それまで考えられなかったタクシン帰国の下地をつくった。

タクシンが不敬罪で起訴されれば、その政治的復権が脅かされる。特に王政支持派は、長年にわたりタクシンの影響力を排除しようとしてきた。

とはいえ、起訴されなければ、司法のダブルスタンダードがまたしても批判を浴びるだろう。

ここ数年、不敬罪は反体制分子に対して頻繁に使われてきた。20~21年に若い世代が主導した抗議デモは、珍しく王室を公然と批判した。タイ人権弁護士協会によると、若者のリーダーやデモ参加者など少なくとも262人が不敬罪で起訴されている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中