「復活」へ虎視眈々だが......タイのタクシン元首相に立ちはだかる、汚職よりはるかに大きな「罪」とは?
Thaksin Legal Woes
タクシンの人気と影響力は健在。右手前はぺートンタン(23年8月、バンコクの空港) VARUTH PONGSAPIPATTーSOPA IMAGESーSIPA USAーREUTERS
<「連立」政権発足で帰国を果たすも、汚職容疑よりはるかに重い不敬罪の落とし穴が>
昨夏に汚職罪などで実刑を言い渡されたタイのタクシン・シナワット元首相(74)は2月中にも仮釈放される見込みだが、一方で、王室に対する不敬罪で起訴されるかもしれない。
バンコク・ポスト紙によると、2月6日に検察庁のプラユット・ペトチャラクン報道官は記者団に対し、2016年に警察の技術犯罪制圧部が提出した告訴状に基づいてタクシンの起訴を検討していると語った。
告訴状は、タクシンが15年に韓国で受けたインタビューで、タイ王室の名誉を毀損したとする。タイでは王室批判は不敬罪として厳罰に処され、最高で懲役15年を科される。
01年から06年のクーデターで失脚するまで首相を務めたタクシンは、昨年8月に15年間の亡命生活から帰国した。空港に到着した直後に逮捕され、在任中の汚職罪などで禁錮8年を言い渡された(恩赦により1年に短縮)。その後すぐに「健康上の理由」で警察病院に入院しており、近く仮釈放申請の条件を満たす。
プラユットによると、タクシンは不敬罪と関連するコンピューター犯罪の容疑について否定している。さらに、仮釈放後は警察に拘束されるかもしれないが、法務長官が起訴するかどうかを検討する間、一時的に釈放される可能性があるという。
タクシンは政治的に復権しつつある
昨年5月の下院総選挙後に、タクシンの次女ペートンタンが率いるタイ貢献党が国軍系の政党と連立政権を組んで以来、タクシンは政治的に復権しつつある。選挙で第1党になったのは民主派の前進党だが、国軍に指名された上院の保守系議員によって連立協議から排除された。
貢献党が保守派および軍部と手を組んで政権に復帰したことは、それまで考えられなかったタクシン帰国の下地をつくった。
タクシンが不敬罪で起訴されれば、その政治的復権が脅かされる。特に王政支持派は、長年にわたりタクシンの影響力を排除しようとしてきた。
とはいえ、起訴されなければ、司法のダブルスタンダードがまたしても批判を浴びるだろう。
ここ数年、不敬罪は反体制分子に対して頻繁に使われてきた。20~21年に若い世代が主導した抗議デモは、珍しく王室を公然と批判した。タイ人権弁護士協会によると、若者のリーダーやデモ参加者など少なくとも262人が不敬罪で起訴されている。