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【検証】「メガネの長期使用で視力が落ちる」というネット情報は本当?

Correcting Vision Issues

2023年11月10日(金)13時30分
アナ・ギブズ(科学ジャーナリスト)

光の屈折率を調節する

ベイツ・メソッドの基本的な考え方は、近視などの視力低下は目の周りの筋肉の衰えによるもので、「精神的な緊張」をほぐし筋肉の凝りを取れば改善する、というものだ。実際に視力低下が筋肉の衰えに起因するのなら、ベイツ説は説得力を持つ(ギプスをはめていると脚の筋肉が衰えるのは周知のとおり)。

だが目の解剖学的な構造を見ると、この説はもろくも崩れる。「メガネの使用が視力低下を促すメカニズムを有効かつ明確に説明できる科学的な理論など存在しない」と、スターは言う。

近視、遠視などのごく一般的な視力の問題は光の屈折と関係がある。目に入った光がどう屈折し、どこに焦点を結ぶかは目の形で決まる。眼球の最前部には光が入る「窓」に当たる角膜がある。眼球の最奥部にはカメラのフィルムに当たる網膜があり、像を映し出し脳に信号を送る役目を担う。角膜と網膜の間にはカメラのレンズに当たる水晶体がある。鮮明な像を結ぶには光を1点に集める必要があり、角膜と水晶体は目に入った光を屈折させて集め、網膜に像を結ばせる。

眼球の奥行きが深すぎるか、角膜のカーブが強すぎると、網膜よりも前でピントが合う。これが近視の原因だ。奥行きが浅すぎるか、角膜の曲がり具合が少ないと網膜よりも後ろで像を結び、近くが見えにくい遠視となる。コンタクトレンズにしろメガネにしろ、矯正レンズは光の屈折率を調節し、網膜上で焦点が合うようにする。「矯正レンズの働きはそれだけだ」と、スター。「目を弱くも、強くもしない」

それでもスターの患者の多くはメガネの長時間使用が目の負担にならないか気にするという。年配者の場合は老眼鏡を早くから使うと老眼が速く進むか、「メガネ頼み」になるのでは、と心配する人が多い。これらは全く根拠のない懸念だと、スターは言う。

老眼の原因は、加齢に伴い水晶体の弾力性が失われて分厚くなること。そのために手元が見えにくくなる。メガネの使用は目の形状に影響を及ぼさないから、老眼鏡をかけたからといって老眼が速く進むことはない。

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