最新記事
東南アジア

ミャンマー軍政、難民収容施設を攻撃 13人の子供含む29人が死亡

2023年10月11日(水)21時45分
大塚智彦

今回の難民キャンプへの攻撃について抵抗勢力のNUGは「軍政による今回の攻撃は非人道的で人道に対する罪であると同時に戦争犯罪であり、強く非難する。NUGはカチンの人々を強く支持するとともに多数の人命が失われたことの悼みを共有する」としたうえで「国連決議に従いNUGは国際社会に向け、人道に対する罪を犯したテロリストである軍政へ適切かつ強力な行動をとるとともに、これ以上の軍政による残虐行為を防止するためにミャンマー国民と協力することを強く求める」との声明を明らかにしている。

1年前にはコンサート会場の爆撃も

ちょうど1年前にミャンマー軍はカチン州カパント村で2022年10月23日に行われていた少数民族武装勢力「カチン独立機構(KIO)」が主催するコンサート会場を爆撃。カチン族の歌手を含め会場にいた聴衆、KIO幹部など80人が死亡し、100人以上が負傷した。

この時は戦闘機3機による空からの爆撃だったが、軍政は攻撃を否定して責任をKIOに押し付けたのだった。

この攻撃での死者80人はクーデター以来、民間人をターゲットにした作戦で最大の犠牲者を出したといわれている。

ミャンマーの人権状況を監視している「政治犯支援協会(AAPP)」によると10月10日現在、クーデター以降ミャンマー軍政によってこれまでに殺害された市民は4144人、身柄を拘束された市民は25274人に達し、このうち19677人が現在も拘束中ないし有罪判決を受けて服役中としている。

ミャンマーでは治安維持が確保できない軍政が焦りのためか、各地の戦闘で一般住民や武装市民組織メンバーに対する残虐な犯罪行為が相次いでいるとの報告がある。

一方では、長引く内戦状態や同じ国民に銃を向けることに嫌気がさして軍や警察を離脱する兵士、警察官も増加しているという。

人権団体やNUGなどによるとクーデター以来軍を離脱した兵士は約1万5000人にも及び、軍の各部隊では定員割れが深刻で、公務員に対して軍に参加するよう軍政は呼びかけているという。

これに対しNUG側は報奨金を提示して軍兵士に離脱や武装市民組織への寝返りを求めている。

こうした現状が軍による空爆や砲撃といった兵士の消耗が低い作戦を多用することにつながっているとの見方も出ている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中