最新記事
EV

中国のEV輸出急増は覇権への大きな布石...「中国中心の地域経済」へ

A Circular EV Economy

2023年8月23日(水)13時50分
クリストファー・バサーロ
シャオペン社のEV「P7」

上半期の中国の自動車輸出ではEVが急伸(シャオペン社のEV「P7」) VCG/GETTY IMAGES

<グローバルサウスの資源保有国を取り込む数十年来の戦略が今、実を結びつつある>

中国政府は何十年も前から、いま「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国で戦略的資源の確保を進めてきたが、ついにその成果を手にしている。中国は今年1~6月、日本を抜いて世界トップの自動車輸出国となった。

中国自動車工業協会によれば、今年上半期の中国の自動車輸出台数は214万台に達し、前年同期比で約76%増えた。このうち電気自動車(EV)など新エネルギー車が25%を占めている。

注目されるのは、自動車輸出の3分の1がアジア諸国、特に東南アジア向けであること。この点は実に重要だ。EV生産に不可欠な原材料を中国に供給してきたこれらの国々が、今は主要顧客として中国から完成車を輸入しているのだから。自動車貿易の拡大は、地域の統合を強め、アジアの新興国をさらに中国の勢力圏に近づける「地域循環型」経済の特徴を示している。

EV分野における中国の台頭、とりわけ東南アジアでの競争力の強化は、近隣諸国の豊富な鉱物資源を確保する計画的な戦略のたまものだ。

中国共産党の指導部は1999年から、中国企業による国外投資を奨励。さらに「ナショナル・チャンピオン(国を代表する大企業)」の拠点を国外に拡大する取り組みを支援してきた。

これらの企業が国外に進出すると、中国では工業部門の成長も相まって、産業の発展に必要な石油や鉱物資源、農産物の需要が高まり始めた。中国は複数の開発銀行を通じ、銅や鉄鉱石、アルミニウムなどの原料を抽出・加工するグローバルサウスの鉱山や工場に資金提供を行ってきた。

中国中心の地域経済へ

さらに中国の開発銀行は近年、アフリカや中南米、東南アジアで、特にEV生産に不可欠な戦略的資源へのアクセスを大幅に拡大させるプロジェクトに資金を提供。中国企業は2014年にはインドネシアでニッケル製錬工場の操業を開始し、16年にはコンゴ民主共和国最大のコバルト鉱山をアメリカの企業から買収するといった活動を精力的に進めてきた。ほかにもリチウム鉱床やレアアース鉱床の権益取得などのプロジェクトがあり、中国の開発銀行はこれらを計画的に支援している。

カルチャー
手塚治虫「火の鳥」展 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中