【ルポ】激戦地バフムート、「捨て石」のリアル...前線で戦う現役兵士や家族の証言
INSIDE THE BATTLE FOR BAKHMUT
ディープステートマップを開くと、5月12日0時34分に更新された画面に確かに変化があった。バフムートをのみ込むようにせり出した南西方向のロシア軍占領地に、初めて「liberated(解放された)」場所を示す青色のエリアが表示されたのだ。解放地は3カ所で、面積は合わせて約4平方キロ。昨年4月28日から380日間、ロシア軍に攻め込まれ続けてきたバフムート周辺で、ウクライナ軍の反撃が開始された。
ローマンはタブレット端末を使って攻撃拠点の方角を確認し、「ここを左に行ってくれ」と、草原を走る軍用車に指示する。スラビャンスクの基地を出て30分、バフムートまで10キロの地点にある林の前で車は止まった。木陰に沿って200メートルほど歩くと、茂みの中に6人の兵士がいた。
「調子はどうだ」と、ローマンが声をかけた先にあったのは山積みのミサイル。2メートルほどの深さに掘られた塹壕を進むと、がっしりと組み上がった大砲が姿を見せた。米軍が採用している牽引式榴弾砲M777だ。
これまでアメリカなどからウクライナに供与されたM777は150門以上。一時期、砲弾不足で1門当たり1日5発しか発射できないこともあったというが、反転攻勢を始めた今は、バフムート周辺で1日200発の砲撃を計画している。
「ピー」という発射準備の笛を合図に、レバーを回し砲身を起こす兵士たち。現地の司令官バレリー・オレフィレンはスマートフォンに映る攻撃目標を凝視している。ロシア兵が待機場所にしている建物だという。このドローン映像を送ってくるのは、バフムートから20キロのところにあった、あの前線本部にいるオペレーターだ。
「ガルマータ!」
発射の掛け声は大砲を意味するウクライナ語だった。反動で地面も木々も揺れる。着弾の様子をドローン映像で確認するバレリー。畑のそばにある民家の1つが一瞬で吹き飛んだ。「This is our work(これがわれわれの仕事だ)」と言って親指を立てると、バレリーはすぐに次の発射準備に取りかかった。