最新記事
ウクライナ情勢

【ルポ】激戦地バフムート、「捨て石」のリアル...前線で戦う現役兵士や家族の証言

INSIDE THE BATTLE FOR BAKHMUT

2023年8月22日(火)17時50分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

230801p26_BFT_08.jpg

けがの治療を終えて再びバフムートに向かうボクダン PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

「われわれは川のそばにいて、近くの民家に身を隠そうとしていた。その時、迫撃砲が飛んできて、炸裂したミサイルの破片が足に当たった。出血が止まらなかったが、自分で止血帯を巻いて車両まで避難した」

敵の追撃を避けるため、軍用車両はバフムートから猛スピードで脱出。ボクダンは北西へ30キロほどのところにあるクラマトルスクの病院で緊急手術を受けた。

持ち前のユーモアでボランティアの仲間を笑わせていたダニール・ミレシュキン。昨年夏、キーウにある自動車部品工場に就職した彼が、その後入隊したことを筆者は知らなかった。彼の名を聞いたのは今年3月、義理の弟でボランティアメンバーのローマン・チェボターリョブ(28)からだ。

「兄とは週に1度ほど電話をしていた。バフムートで偵察任務に就いていて、『明日早いから、またかけ直すね』と言って電話を切った。次に届いた連絡はその翌日、実の妹である私の妻に宛てた死亡通知だった」

ダニールの妹アンナ(25)は妊娠8カ月だった。ショックで泣き崩れるアンナの代わりにダニールの身元確認に行ったローマンは、軍の関係者からその時の状況を聞かされた。

「現場はバフムートの一番中心の辺りだったそうだ。同行していたのは狙撃手、地雷探査兵など8人で、兄はライフルを持っていた。早朝に出陣する攻撃部隊に情報を伝えるため、ひっそりと移動しながら偵察していたとき敵に見つかり......彼らは殺されてしまった」

3月19日午前3時30分、ダニールは暗闇の街で30歳の生涯を閉じた。

バフムートで命を落としたウクライナ兵は数千人に上るという。ダニールの墓があるザポリッジャの丘には新たな戦死者の墓が一つ、また一つと増えている。

230801p26_BFT_12B.jpg

バフムートで戦死したダニールの墓 PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

1日200発の砲撃を計画

ウクライナ軍の反転攻勢はいつ始まるのか──この数カ月、国内外で高い関心を呼んだテーマだった。

「バフムート周辺で昨日始まったんだって」

こう耳打ちしたのは、筆者の通訳をしてくれている聖職者のニキータ(20)だった。ウクライナ軍の攻撃拠点を取材することが許された5月12日、バフムート方面歩兵部隊通信部の司令官ローマン・ホールベンコ(47)が伝えてくれた情報だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中