【ルポ】激戦地バフムート、「捨て石」のリアル...前線で戦う現役兵士や家族の証言
INSIDE THE BATTLE FOR BAKHMUT
「全てが悪い夢のようだ」
この日15時58分に更新された地図には、バフムートの北西方面にあるロシア軍占領地に2キロほどのくぼみができていた。その後くぼみは2キロ、さらに1キロと広がり、解放地として色付けされた。
そして、ウクライナ軍によるバフムートの「逆包囲」と伝えられるようになった頃、大規模攻撃のXデー6月8日を迎えた。
だがザポリッジャやドネツク州中部での成果が発表されるなか、バフムート周辺の反転攻勢は数週間、止まっているように見えた。ウクライナの政権幹部が主張してきたとおり、バフムートはロシア軍を引き付け消耗させる役目を担う地で、結果として捨て石にされてしまったのかもしれない。
バフムートで命を落としたダニールの妹アンナは、6月に次女を出産した。付けた名前はキラ。響きが美しいから、と話してくれた。大規模攻撃が始まって2週間、兄のことをどう思うか尋ねた。
「兄の死は私たち家族にとってつらい話題なので、あまり話しません」
キラを抱きながらこう語ったアンナ。しばらくすると、目に涙があふれてきた。アンナの親友で、マリウポリ出身のサッシャ・アリフレンコ(23)が、バフムートへ赴いたダニールと家族の思いについて伝えてくれた。
「ダニールはとても強い愛国者で、『役に立ちたい。英雄でありたい』と願っていた。しかしアンナは彼が戦いに行ったことに腹を立て、彼を止めることができなかった自分を責めたのです。ダニールの父も、息子の代わりになって死ぬことを望んだ。
ウクライナでは多くの人が戦地に赴くけれど、彼らを愛する人たちは非常に心配していて、ほとんどの場合入隊を望んでいない。全てが悪い夢のようだ」
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