最新記事
中国

中国の大卒者を襲う超就職氷河期...その戦犯は? 若者の失業率は近年最高に

Too Many Diplomas

2023年7月27日(木)16時10分
佟皓宇(ワシントン在住リサーチアナリスト)
江蘇省淮安で開かれた就活フェアに殺到する今年度卒業生

江蘇省淮安で開かれた就活フェアに殺到する今年度卒業生(7月1日) CFOTO/AFLO

<激増する高学歴若年層の失業率は最悪水準に、政治的論理で大学を拡張した国家の「罪と罰」>

中国経済が新型コロナのパンデミックのどん底から回復しているにもかかわらず、公式発表による中国の若年労働力人口の失業率はぞっとするほど高いままだ。今年5月の16~24歳の若者の失業率は、近年最高の20.8%に達した。

一方、今夏の卒業シーズンの大学新卒者総数は過去最多の1158万人。となれば、就職市場への圧迫が悪化するのは確実だ。

減速気味とはいえ広範な経済回復と、圧力を受け続ける若年雇用というギャップは、労働市場の不均衡な構造の反映であり、経済改革のペースをはるかに超える速度で大学教育拡張を推し進めた結果だ。大学卒業者にとって魅力的なサービス産業の成長を伴わないまま、学士号取得者だけが過剰に増えれば、中国の生産性低下は止まらないだろう。

皮肉なことに、中国近代史上で最も教育水準が高い今の若者世代は、彼らを吸収し切れない経済の中で行き場をなくし、国家の重荷になる一方のようだ。だが、これは驚くべき話ではない。大学拡張の主な目的は、教育そのものの充実とは無関係だったからだ。

中国政府が1999年に高等教育の大幅拡張を決定したのは、労働力改革を見据えてのことではない。大きな目的は、輸出市場の停滞に対処することにあった。

アジア金融危機に直面していた当時、政府は景気の刺激策として、新たなキャンパスを建設した。インフラバブル到来前の中国では、敷地や施設を要する大学の建設は刺激策として格好の存在だった。

同時に、WTO(世界貿易機関)加盟に向けて、当時の中国国有企業では大量解雇が進行していた。既に雇用市場が収縮するなか、高等教育の拡張は高卒者を別の進路に振り向ける方策でもあった。

将来的な大卒者の就職難の兆候は2000年代前半に表れていたが、高等教育の規模拡張の動きは過熱した。00年代後半には、拡張のための支出のせいで、多くの大学が多額の負債を抱えていた。

大学拡張の是非をめぐっては、背景にあった政治的論理があらゆる検討材料を圧倒した。その結果、中国の高等教育機関の合格率は98年には約34%だったが、21年には93%近くに急上昇。10年にわずか26.5%だった進学率は、22年には60%に迫った。

高等教育ブームは、ホワイトカラー職である都市部の管理・プロフェッショナルサービス部門の就職競争を激化させた。こうした分野は中国の経済成長の主役ではなく、雇用数にはもともと限りがある。

自動車
DEFENDERとの旅はついに沖縄へ! 山陽・山陰、東九州の歴史文化と大自然、そして沖縄の美しい海を探訪するロングトリップ
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中