最新記事
香港

住宅不足の香港、当局が若者向け「ホステル」補助金を拡大 反政府デモ招く原因の排除目指す?

2023年7月16日(日)10時54分
ロイター

厳しい現実

調査会社デモグラフィアによれば、住宅の入手しやすさという点で、香港は13年連続で世界ワースト1位となっている。住宅難が香港における大半の社会問題の原因だとされている。

低所得層向けに利用可能な公営住宅はあるが、平均5.3年の入居待ちとなっている。ファミリーや高齢者が優先されるため、若い単身者が入居できるチャンスはゼロに近い。

 
 

香港の「ホステル」制度がスタートしたのは2011年。だが、ようやく本格化したのは昨年7月に習主席が香港を訪れ、当局は若年世代の住宅・雇用問題への取り組みを強化し、自己鍛錬の機会を増やさなければならないと発言してからだ。

当時、香港には80床のホステルが1カ所あるだけだったが、その後、香港政府は供給拡大を約束している。

当初の計画では、完全な新築や非営利団体が所有する物件の再開発により3400床を供給することになっていたが、当局は現在、これに上乗せして、ホテルの改装により5年間で3000床を提供することを目指している。

若年層の居住権を巡り活動する団体が5月に発表した調査結果によれば、回答者の90%近くは申し込むつもりはないと答えており、ホステルの魅力は限定的になるとみられる。むしろ回答者の大半は、いつか自分のアパートを購入するまで貯蓄に励むことを優先している。

そうは言っても、ホーさんが入居したホステル「ビーリビング」の応募倍率は5倍に達した。

新たに「ビーリビング」に入居したチェルシー・トゥンさん(23)にとって、今回の転居は、ボーイフレンドと一緒に暮らしつつ、自分たちのアパートを購入するチャンスとなる。

保険代理店で働くトゥンさんは「ここで暮らしていれば、頭金は貯金できる」と話す。

ただ、ホステル計画にはいくつか課題もある。

この3年間、コロナ禍による厳しい打撃を受けてきたホテル業界では、ここに来て需要の増加が見られるため、ホテル改装によるホステル拡大が困難になる可能性がある。

またホステルを運営する非営利団体は、持続可能な資金調達モデルをなかなか見い出せずにいる。

政府の制度に基づいて建設された初のホステルを運営する団体は、賃料収入は全て建物の維持管理とプロジェクト管理に充てられていると説明する。

香港青年協会でスーパーバイザーを務めるキャリー・ウォン氏は、「運営を続けていくためには、コスト削減と資金調達の方法を考える必要がある」と語る。

香港城市大学で住宅・都市問題を研究するガイ・ミンイップ教授は、ホステル制度による供給量は限定的になる見込みで、香港の若年層のフラストレーションを緩和するという意味でもあまり期待はできないと話す。

「問題の根源は住宅だけではない。機会や将来への展望、政治、民主主義などあらゆることについて若者がどう考えているかという点に関連していることが、研究で明らかになっている」と同教授は言う。

(Clare Jim記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

展覧会
奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」   鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中