「そこには秘密のルールがある」と米高官...CIAが戦う水面下のウクライナ戦争
CIA: NOT ALL-KNOWING
続いて10月8日、クリミア大橋がトラック爆弾で破壊された。以前からウクライナ側が攻撃目標の1つに挙げていた橋だ。実行犯は不明だったが、プーチンはウクライナの「特殊部隊」の犯行と決め付けた。そして自国の安全保障会議の場で、「われわれの領土でこのようなテロ行為が続くなら、ロシアは厳しく対応する」と述べた。そして実際に、ウクライナの都市を標的とした複数の攻撃で対応した。
CIAは当時、誰が仕掛けたのかを必死で突き止めようとした。前出の軍情報部の匿名高官は言う。「クリミア大橋への攻撃でCIAは学んだ。ゼレンスキーは自国の軍隊を掌握できていないか、あるいは特定の作戦行動については目をつぶっているか、そのどちらかだと」
クリミア大橋の攻撃に続いて、首都キーウから1000キロ以上も離れたロシアのエンゲルス空軍基地に対する長距離攻撃も行われた。アメリカ政府の別の匿名高官によれば、CIAはこれらの攻撃を事前に察知していなかった。しかしCIAが指示を出し、ロシア領を攻撃させたらしいという噂が流れ始めた。するとCIAは公式に、強力かつ異例の否定声明を出した。「CIAがロシアに対する破壊工作を何らかの形で支援しているという疑惑は、全くの虚偽だ」。CIAのタミー・ソープ報道官はそう語ったものだ。
ウクライナを抑えるのは困難
今年1月、バーンズCIA長官はキーウを訪問し、ゼレンスキーと会い、この秘密の戦争と戦略的安定の維持について話し合った。だが「ウクライナ政府は勝利の可能性をかぎ取っており、今までより大胆にリスクを冒すようになっていた」と2人目の匿名高官は言う。「ただし、ロシア国内に独自の破壊工作グループが出現しているのも事実だ」
それでも表面上の変化はほとんどなく、CIAも「知らぬ存ぜぬ」で通していた。そこへ起きたのが今年5月3日のクレムリンへのドローン攻撃だ。ロシア連邦安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は、米英を名指しで非難し、「今回のテロ攻撃は社会・政治情勢を不安定にし、ロシア国家の主権を脅かすために仕組まれた」と述べた。
一方でウクライナ政府は暗に関与を認めた。「カルマ(因果応報)とは残酷なものだ」。ゼレンスキーの顧問ミハイロ・ポドリャクはそう言い放った。あるポーランド政府高官は、戦線をロシア領内にまで広げないという裏協定を守るようにウクライナ政府を説得するのは不可能に近いと本誌に語った。「私見だが、CIAはウクライナという国家の本質を理解できていないようだ」
この点を問いただすと、国防総省の匿名高官は次のように答えた。CIAにはさまざまな役割があり、そこのバランスを取るのは難しいから、現時点で「CIAが失敗したとまでは言いたくない」。ただし破壊工作や越境攻撃で新たな、かつ複雑な状況が生まれているのは事実だとし、ウクライナによる破壊工作が続けば、「悲惨な事態」につながる可能性があると警告した。
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