「そこには秘密のルールがある」と米高官...CIAが戦う水面下のウクライナ戦争
CIA: NOT ALL-KNOWING
クリミア大橋爆破の犯人は
侵攻から1年以上が過ぎた今、アメリカは表と裏で2つの巨大なネットワークを維持している。ベルギーやオランダ、ドイツ、ポーランドの港へ船で支援物資を運び、トラックや列車、飛行機に積み替えてウクライナへ届ける一方で、ひそかに民間航空機の一団「グレー・フリート」を雇って、兵器やCIA要員を運んでいる。
CIAは本誌に対し、裏のネットワークの基地を具体的に特定しないよう、また運航業者などを名指ししないよう求めてきた。前出の匿名高官によると、裏ネットワークの秘密は今も固く守られていて、ロシア側に情報が漏れた気配はない。もしも秘密の支援ルートが知られていれば、ロシア側はその拠点や通行ルートを攻撃してくるはずだ。
言うまでもないが、このようなネットワークを維持するには、ロシア側のスパイ活動を阻む強力な防諜活動が必要になる。ロシアのスパイは現在もウクライナ国内で活発に活動しており、アメリカがウクライナと共有する情報はほぼ「筒抜け」だと考えたほうがいい。近隣諸国にも、ロシアのスパイや親ロシアの政治家や軍人はたくさんいる。
「われわれは外国政府や諜報機関に潜むロシアのスパイの摘発にかなりの時間を割かれている」──ウクライナでの防諜活動に関わる米軍当局者は本誌にそう語った。「たとえNATO加盟国でも、旧東欧圏にはロシアが深く入り込んでいる」
巨額の最新兵器が東欧経由で運ばれることになったため、CIAは汚職との戦いにも取り組んでいる。これには武器の搬入先を確認するだけでなく、横流しやリベートの授受を取り締まることも含まれる。
この戦争が始まってから、ウクライナはアメリカと独自の「裏協定」を結んだ。ロシアをダイレクトに攻撃しないと約束すれば、アメリカは武器と秘密情報を提供するという合意だ。以後、アメリカの送る武器と情報は増え続けている。
この「裏協定」は、つい最近まで守られてきた。国境越えの砲撃戦や、ミサイルが誤ってロシア領内に着弾する例はあっても、ウクライナ側は常に関与を否定してきた。
だが昨年9月26日、ノルドストリームのガスパイプラインが爆破された。ロシア国内の施設ではないが、パイプラインの実質的所有者はロシアの国営会社ガスプロムだ。このときCIAは疑念を抱いたが、当時のウクライナ政府は関与を否定した。「バルト海の事故とは何の関係もない」とゼレンスキーの補佐官は語り、それ以外の臆測は「滑稽な陰謀論」だと切り捨てた。