「そこには秘密のルールがある」と米高官...CIAが戦う水面下のウクライナ戦争
CIA: NOT ALL-KNOWING
「欲しいものを手に入れるという点で、ゼレンスキーの手腕は見事だった。しかしウクライナ側も、見えざる一線を越えないと約束せざるを得なかった」と国防総省の匿名高官は言う。つまり、アメリカの供与した武器でロシア領内を攻撃しないということだ。ゼレンスキーも、公にはロシア領への攻撃を否定している。
これ以外にも、CIAは多くの国々を説得してバイデン政権の設けた条件を受け入れさせた。なかには、アメリカよりも好戦的でリスクをいとわない国もあった(イギリスやポーランドなど)。アメリカほど明確にウクライナに加担したくないと思う国もあった。国内に一定の親ロシア派がいて、プーチンを怒らせたくない国などだ。
CIAは水面下で、相手国の情報機関や秘密警察にも働きかけた。プーチンだけでなく、ゼレンスキーと彼の率いる政権の真意を探るにはウクライナ周辺諸国の協力が不可欠だった。ウクライナに入ったCIA要員は、アメリカの供与した兵器やシステムの運用を支援した。それ以外の隠密作戦にも従事したが、ロシア軍との交戦だけは避けてきた。
「CIAによるウクライナでの活動は厳格なルールの下で行われ、同国で一度に活動できる要員数には上限がある」と教えてくれたのは国防総省の別の匿名高官。「隠密特殊工作員の任務遂行には制約があり、やれる範囲は極めて狭い」
それでもCIAの要員は、米軍の人間が行けないような場所へ平気で赴き、軍人にはできないことをやり遂げる。ウクライナでもそうだ。軍人はウクライナへの入国を制限されており、しかも政府の厳格なガイドラインに従わねばならない。だから現実には、首都キーウの大使館に少数の武官がいるだけだ。一方でウクライナ国内に潜むCIA要員の正確な数は確認できないが、100人を超えることはないとされる。
米軍は昨年2月に、ウクライナに駐留する全ての要員(非公然の特殊部隊を含む)を国外に退去させたと発表している。そしてホワイトハウスは、軍隊の役目を別な機関が代行できるようにした。バイデンは国家安全保障令(NSD)と「大統領事実認定」を出し、ロシアに対する一定の秘密作戦を指示している。
こうして国防総省とCIAの間に、9.11テロ直後のアフガニスタンで生まれたものに似た特別なパイプができた。CIAのバーンズ長官と国防長官のロイド・オースティンは、現時点でも緊密に連携している。