最新記事
ウクライナ情勢

「そこには秘密のルールがある」と米高官...CIAが戦う水面下のウクライナ戦争

CIA: NOT ALL-KNOWING

2023年7月26日(水)12時50分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

本誌はウクライナにおけるCIAの活動について詳しく調査した。ウクライナ支援の規模や内実、そして米兵を前線に送ることはないというバイデンの約束の本気度について、議会と国民の間に懸念が広がっているからだ。

CIAからもホワイトハウスからも具体的な回答は得られなかった。ただしウクライナや隣国ポーランドのどこでCIAが動いているか、それ以外の国でも秘密作戦に従事しているか、支援物資の空輸に誰が関与しているかを特定されるような報道は慎むよう求められた。

ウクライナ戦争の特異さ

取材に応じた専門家や政府高官は口をそろえて、CIAはウクライナともロシアとも良好な関係を維持しており、膨大な情報と物資を巧みに動かし、さまざまな国との調整も行っていると認めた。ただしプーチンとゼレンスキーの本音を探るという点では苦戦しているという。

今回の戦争で、アメリカはウクライナを全面支援しているが、両国間に同盟関係は存在しない。ウクライナがロシアと戦うのを助けてはいるが、アメリカがロシアと戦っているわけではない。こうした特異な状況ゆえ、アメリカの対ウクライナ支援の実態は秘密の壁に守られていて、通常の戦争なら米軍のやるべきこともCIAが代行している。

匿名で取材に応じた2人目の高官によれば、「CIAはこの戦争に積極的に関与しつつ、米兵を前線に送らないというバイデン政権の公約を守らねばならない。そこのバランスが実に難しい」。

トランプ前政権の時代、ホワイトハウスとCIAの関係は最悪だった。しかしウクライナ戦争で大役を果たすことで、CIAスタッフの士気が上がったのは間違いない。ただし自分たちの功績を表立って口にすることはできない。2人目の匿名高官に言わせると、そんなことをすれば「プーチンを刺激するだけ」だ。

それもあって、CIAはロシアへの直接的な攻撃や実戦への関与をほのめかすような言動を慎んでいる(ロシアから欧州への天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の爆破や、クリミア大橋への破壊工作、無人機や外国人部隊による越境攻撃への関与などだ)。これらの攻撃は、ロシア領土を攻撃しないとしたゼレンスキーの約束と矛盾しているように見える。

「前線にいるロシア軍指揮官の殺害や、ロシア黒海艦隊の旗艦の撃沈などでCIAが主要な役割を果たしたという見解は、ウクライナでは好まれない」と指摘したのは、かつて米軍情報部の高官だった人物だ。「この戦争を勝ち抜くのは、アメリカではなくウクライナだ。この点を忘れると、ウクライナ政府にこちらの話を聞いてもらえなくなる」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中