「そこには秘密のルールがある」と米高官...CIAが戦う水面下のウクライナ戦争
CIA: NOT ALL-KNOWING
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領 CARL COURT/GETTY IMAGES
<米情報機関は「秘密のルール」に基づき戦争に関与し、ゼレンスキーとプーチンの真意を読み解こうとしている。本誌「CIA秘密作戦 水面下のウクライナ戦争」特集より>
実を言うと、天下のCIAもウクライナ戦争の核心的な部分についてはよく分かっていない。侵略者ウラジーミル・プーチンの本音はもちろん、アメリカが全面的に支援するウォロディミル・ゼレンスキーの真意や思考方法もよく分からない。
ロシア大統領のプーチンが、未遂に終わった「ワグネルの乱」の対応に追われているのは間違いない。だからこそCIAは、ロシアだけでなくウクライナ側の次の一手も慎重に見極めようとしている。
プーチンが戦闘をエスカレートさせ、欧州全域を巻き込む世界戦争に踏み込まない限り、ロシア(と、その国家としての存立)を脅かすような行為は控える。それがジョー・バイデン率いるアメリカ政府の決意であり、この点はウクライナ側にも念を押している。見返りにアメリカが期待するのは、プーチンがウクライナ領を越えて戦線を拡大せず、決して核兵器に手を出さないことだ。
「プーチンは追い詰められている」と言ったのは、匿名を条件に本誌の取材に応じた米国防総省の高官だ。もちろんCIAはウクライナの状況を的確に把握しているが、プーチンの出方は読めていないという。
ロシアが隣国ベラルーシに核兵器を持ち込み、一方で自軍の多大な損失という不都合な真実が暴露された今の状況は極めてデリケートだ、とこの高官は言う。ロシアもウクライナも「戦闘の自制を口にしているが、その約束を守らせるのはアメリカの責任であり、そこではわが国の情報活動の質が問われる」。
「ウクライナで起きていることの全ては秘密の戦争であり、そこには秘密のルールがある」。そう言ったのはバイデン政権で対ウクライナ政策の立案に関与している別の高官(事柄の性質上、こちらも匿名)。
この人物を含め、取材に応じた国家安全保障関連の当局者多数によれば、アメリカとロシアは長い年月をかけて、そうした秘密のルールを築き上げてきた。そこではCIAが途方もなく重大な役割を果たしている。相手の情報を探るだけでなく、交渉役も担い、時には秘密情報を提供し、補給の手配もし、同盟諸国との微妙な関係の調整にも当たる。そして何よりも、この戦争が一線を越える事態を防がねばならない。
「米軍を前線に投入する意図はなく、従ってロシアが戦闘をエスカレートさせる必要はない。そういうバイデン政権の決意は揺るがない」とこの高官は述べ、「CIAがウクライナ国内にいるかと問われれば、答えはイエス。だが、あくどいことはしていない」と付け加えた。