米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向け砲弾製造用途で
米国務省は、日本からTNTの調達を検討しているかとの質問には直接答えず、ウクライナが必要とする支援について、同盟国や有志国と協力していると回答した。その上で、日本は「ウクライナの防衛について主導的な役割を果たしている」とした。
同盟国で武器のサプライチェーン構築へ
ロシアが勝利すれば中国による台湾侵攻の動きを勢いづかせる恐れがあると危惧する日本政府は、ウクライナを積極的に支援しようとしている。岸田文雄首相は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」とたびたび発言してきた。
それでも、武器の供与については三原則に基づき殺傷能力のあるものまで踏み込んでこなかった。5月中旬に訪日したウクライナのゼレンスキー大統領と広島市で会談した際も、岸田首相は自衛隊車両を供与する方針を伝えるにとどめた。
安全保障や輸出管理などが専門の拓殖大学の佐藤丙午教授は「弾薬は兵器ではなく軍需品なので、致死性があるものを輸出するという解釈は妥当ではないように思う」とする一方、「それに準ずる日本産のものが紛争地に行くことに対し、過激に反応する人たちがいてもおかしくない」と話す。
ウクライナ向けの弾薬供給が不足する中、米国は日本を含め同盟国、有志国に協力を求めている。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は主要7カ国首脳会談(G7広島サミット)の期間中に開いた記者会見で、「ウクライナの継戦能力を維持するために必要な物資を確保することは、引き続きバイデン大統領の最優先課題だ」と語った。
155ミリ砲弾を運用する韓国も米国から協力を打診された国の1つだが、韓国国防省の関係者はロイターの取材に対し、殺傷能力のある武器をウクライナに供与しない方針は変わっていないと答えた。
ロイターは米軍が打診した日本企業を特定できていない。前出の関係者らも企業名を明らかにしなかった。
ロイターが日本火薬工業会の会員企業のうち、火薬類を扱う22社に問い合わせたところ、TNTを製造していることを確認したのは中国化薬(広島県呉市)のみ。同社はロイターの取材に対し、TNTを製造しているものの「輸出について米政府及び米軍から直接打診を受けたとの事実はない」とした。
防衛装備庁や他の企業などを通じて米側と協議しているかどうかについては、「個別の商取引については細部を答えていない」とコメントを控えた。
岸田政権は、昨年末にまとめた国家安全保障戦略など防衛三文書に三原則を見直す方針を盛り込んだ。与党の自民党と公明党が運用指針の改定に向け現在協議しており、殺傷能力のある武器輸出を可能にするかどうかが議論の焦点となっている。
1日の日米防衛相会談後に会見したオースティン米国防長官は、日本が武器輸出政策の変更を検討していることについて問われ、「さらにウクライナへ支援できるようになるのは歓迎だが、決めるのは日本政府だ」と語った。
(Tim Kelly、久保信博、豊田祐基子、金子かおり 取材協力:Idrees Ali、Ju-min Park 編集:橋本浩)