最新記事
経済格差

経済的困窮からアルバイトを迫られる高校生に救いの手を

2023年6月7日(水)10時00分
舞田敏彦(教育社会学者)
アルバイト学生

高校生のアルバイトというと遊興費目的というイメージもあるが、切実な理由によるものも少なくない fizkers/iStock.

<家庭の経済状況が厳しい高校生ほど、特に女子ではアルバイト経験が高い>

NPO法人キッズドアの調査によると、アルバイト経験のある高校生は4割ほどで、理由の26%が「受験や進学のための貯金」、15%が「授業料や修学旅行の費用」だという。高校生のアルバイトというと遊興費目当てのイメージがあるが、切実な理由によるものも少なくないようだ。昨今の物価高の影響もあるだろう。

高校生のアルバイト実施率は、基幹統計の『国勢調査』からも算出できる。2020年のデータによると、15~17歳のうち労働力状態が「通学の傍ら仕事」の者は9万119人、「通学」の者は284万3897人。両者の合算に占める前者の割合(3.07%)が、アルバイト実施者率とみなせる。9月下旬の1週間に仕事をした者に限っているため、数値は低く出ているが、アルバイトをしている生徒の量的規模の指標と見ていい。

東京都内の23区別に数値を計算すると、1.24%から5.76%までの開きがある。同じ大都市にもかかわらず、高校生のアルバイト実施率はエリアによって異なり、かつ各区の社会経済特性と相関している。<図1>は横軸に住民1人当たりの税金負担額、縦軸に高校生のアルバイト実施率をとった座標上に、23区のドットを配置したグラフだ。

data230607-chart01.png

ご覧のように、右下がりの傾向がみられる。住民税の課税額が低い、つまり住民の経済力が低いエリアほど高校生のバイト率が高い傾向で、相関係数はマイナス0.75にもなる。家庭の貧困とアルバイトの関連をうかがわせるデータだ。

アルバイトをするのは悪いことではない。諸外国では、アルバイトをする高校生の割合は日本より高いし、裕福な家庭の子弟も、社会勉強を兼ねて大学進学の費用を自分で稼いだりしている。高校生ともなれば、修学旅行の費用くらいアルバイトをして自分で稼いだらどうか、とう声もある。

だが学業に支障が出るとなると、学習権の侵害となる。子どもの教育機会や健全な成長を妨げる「児童労働」で、家庭の経済力と関連しているとなると、教育格差の問題の性格も帯びてくる。有害な働き方をしている生徒がいないか、実態を把握し、その結果を踏まえて高校就学支援金制度の見直し等も行う必要がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中