モスクワを攻撃されても事を荒立てたがらないプーチンの秘密とは?
Why Putin is Downplaying Moscow Drone Strikes
プーチンはまた「長引く戦争に世論の支持をつなぎ止め、西側を悪の権化に仕立てようとする、クレムリンのお決まりの主張の数々を繰り返した」と、ISWは指摘する。さらに、「モスクワの防空システムは『正常に機能している』が、『改善を検討』する余地はあるとも述べた。首都及びウクライナとの国境付近における防衛システムの不備を、国内の極右に突かれないよう、先手を打ったのだろうと、ISWの報告書は指摘している。
プーチンはさらに、ウクライナはザポリージャ原子力発電所の安全管理を脅かし、「汚い爆弾」を使っているというお決まりのプロパガンダも繰り返した。これは、ロシア軍の失態が明らかになるたびに、クレムリンが持ち出すデフォルトの偽情報だと、ISWは述べている。
ロシアのタカ派の軍事ブロガーたちは、今回のドローン攻撃に対するクレムリンの対応に批判的だ。ロシア連邦保安庁の元大佐で、2014年に起きたロシアのクリミア併合と親ロシア派によるウクライナ東部の一部の実効支配で重要な役割を果たしたイーゴリ・ギルキンは、いまだにウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と言い張り、本格的な戦争であることを認めようとしないプーチンとクレムリンの腰抜けぶりをあざ笑っている。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジンとチェチェン共和国の独裁者でプーチンの子飼いと言われるラムザン・カディロフはいずれも、ロシアが勝利するには新たな動員で総攻撃をかける必要があるとみていて、ロシア領内へのドローン攻撃に対しては徹底的な報復攻撃を行うべきだと主張している。
国民の危機感を煽る工作か
プリゴジンは祖国を本気で守ろうともせず、「おとなしく座視している」ロシアの指導層に怒りをぶちまけ、カディロフはウクライナ軍に高性能兵器を供与している西側諸国を痛い目に遭わせる必要があるなどと息巻いた。
一方、ウクライナの大統領顧問ミハイロ・ポドリャクは、今回のドローン攻撃には「快哉を叫びたい気分」だと言い、今後も同様の攻撃が起きるだろうとも述べたが、ウクライナ軍は関与していないと断言した。ウクライナ側はこれまでもロシア領内への攻撃については一貫して関与を否定している。
ウクライナ議会の外交委員会委員長を務めるオレクサンドル・メレシュコ議員は、本誌の取材に対し、「戦争の霧」が視界を閉ざしているため、今回のドローン攻撃の真相は見えにくいと語った。
「何が起きたかはっきりしない」と、メレシュコは認めた。使用されたドローンはさほど高性能ではないようだから、「何らかの目的でロシア国内の反体制派が行った」可能性もあるという。
もう一つの可能性としては、「ロシアの次期大統領選まで1年を切った今、国民の危機感を煽り(プーチン支持の世論を固めるために)、ロシアの情報機関が仕掛けた工作とも考えられる」。