最新記事
トルコ

エルドアンの政治生命に終止符は打たれるか──迫るトルコ大統領選、国際社会が目を光らせるべき2つのこと

Neither Free Nor Fair

2023年5月10日(水)13時10分
ネート・シェンカン(人権擁護団体フリーダム・ハウス)、アイクト・ガリポグル(人権擁護団体フリーダム・ハウス)

さらに今年1月には、公務員の賃金の30%引き上げも発表された。こうした大盤振る舞いはトルコ経済に打撃を与えるだろうが、エルドアンが気にするのは選挙日程のみ。支出拡大の悪影響の多くは、次期大統領の5年の任期中に表面化することだろう。

野党陣営は、得票数をめぐる駆け引きでAKPに勝たなければならないという難題にも直面している。

20年間にわたり政権を握ってきたエルドアンは、前例にない手法で国家統制を強化してきた。抑圧的な戦術を取ることを恐れず、目先の利益につながるのなら同盟を結ぶことも、破棄することもいとわない。エルドアンは常に、無慈悲で日和見的な指導者の姿をさらし続けてきた。

今回の選挙はエルドアンにとってかつてないほど大きな賭けであり、本人もそれを自覚している。

懸念されるのは、投票日の夜には野党が優勢(ただし僅差で)だが、エルドアンがYSKなどの力を使って票差を埋めようとするシナリオだ。これは14年のアンカラ市長選や17年の憲法改正の国民投票で使われた手法だとされる。19年のイスタンブール市長選でも同様の試みがなされたが、この時は失敗に終わった。

もう一つの危険は、野党が勝利してもエルドアンが敗北を認めないという異例の事態だ。第1回投票でどの候補者も50%以上の票を獲得できずに決選投票に突入した場合、このリスクが高まる(エルドアンとクルチダルオールが突出しているのは間違いないが、知名度の低い候補者に票が流れ、第1回投票で勝ちきれない可能性はある)。

第1回投票と決選投票の間隔が2週間しか空いていないため、歴史的な選挙を控えて既に緊迫しているトルコ国内の雰囲気が一段と過熱するかもしれない。

だとすれば、国際社会は多大な資源を投入して、現地での選挙違反行為を監視・記録する必要がある。違反があった場合には即座に公然と糾弾しなければならない。そしてエルドアンやAKPに対して、選挙結果への介入や抗議行動の武力鎮圧には、外交関係の変化や関係者への制裁などの代償が伴うと知らしめることも必要だ。

21年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件や昨年のブラジル大統領選後の暴動を経て、選挙結果を尊重し、政権移行を平和的に実現する重要性に改めて世界的な関心が高まっている。国際社会はトルコでこの2点が守られるよう目を光らせるべきだ。トルコの民主主義は今、存亡の危機に瀕しているのだから。

From Foreign Policy Magazine

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ軍事作戦拡大 国連診療所などへの攻

ワールド

マスク氏、近く政権離脱か トランプ氏が側近に明かす

ビジネス

欧州のインフレ低下、米関税措置で妨げられず=仏中銀

ワールド

米NSC報道官、ウォルツ補佐官を擁護 公務でのGメ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中