最新記事
トルコ

エルドアンの政治生命に終止符は打たれるか──迫るトルコ大統領選、国際社会が目を光らせるべき2つのこと

Neither Free Nor Fair

2023年5月10日(水)13時10分
ネート・シェンカン(人権擁護団体フリーダム・ハウス)、アイクト・ガリポグル(人権擁護団体フリーダム・ハウス)

クルド系左派で議会第3党の国民民主主義党(HDP)の共同党首セラハッティン・デミルタシュは、テロのプロパガンダの流布などいくつかの罪で16年から投獄されている。分離独立を目指す非合法の武装組織、クルド労働者党(PKK)と国の和平交渉が15年に事実上、決裂して以降、HDPの多くの政治家や市長が、投獄されたり職を解かれたりしている。

前回18年の大統領選はデミルタシュが獄中から立候補したが、HDPは今回は独自候補を立てず、中道左派の最大野党・共和人民党(CHP)が率いる野党連合を支持する方針を表明している。

21年に最高検察庁は、HDPがPKKと行動を共にしているとして、解党を憲法裁判所に申し立てた。HDPは判決を大統領選後まで延期するように要請しているが、非合法化されて行動を封じられることを警戒して、議会選の候補者を緑の左派党(YSP)の名簿に掲載している。

今年4月末に当局は、HDPの有力党員やクルド人ジャーナリスト、弁護士、芸術家など126人を拘束した。ボランティアで選挙監視員を務める予定だった弁護士や、選挙の不正を報道する準備をしていたジャーナリストも含まれている。

裁判所の動きは、野党陣営の大統領候補の選定にも影響を与えている。

CHPの有力メンバーでイスタンブール市長のエクレム・イマモールは、19年の市長選で勝利したが裁判所に再選挙を命じられ、司法当局を批判した。昨年12月、裁判所はこの発言を国家公務員への違法な侮辱に当たると判断。有罪が確定した場合、約2年7カ月の禁錮刑と政治活動の禁止が科せられる恐れがある。

大統領選の有力候補の一人だったイマモールがこの判決を受けた後、野党陣営では二大勢力のCHPと右派政党・優良党の分裂が進行。最終的に、CHP党首のケマル・クルチダルオールが統一候補に指名された。

230516p32_TRK_02.jpg

野党統一候補のクルチダルオール(中央)はエルドアン政権からの「妨害」に打ち勝てるか CAGLA GURDOGANーREUTERS

票目当ての大盤振る舞い

今年2月に大地震に見舞われるまで、エルドアンの最大の弱点は経済運営の失敗だった。エルドアンの特異な経済思想の影響で、トルコ政府と中央銀行は猛烈なインフレにもかかわらず、積極的に金利を引き下げてきた。通貨トルコリラは13年以降、約9割も下落。食料品やエネルギー価格のインフレ率が前年比で100%を超えることもあった。

選挙が近づくなか、経済政策に対する野党の批判を抑え込みたいエルドアンは、社会支出の引き上げを相次いで打ち出した。昨年12月には翌年の最低賃金を約55%引き上げると発表。230万人が直ちに年金を受給できるよう、受給開始の最低年齢の撤廃も約束した(皮肉なことに、野党は以前からこうした改革を提唱していたが、エルドアンに拒否されていた)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中