最新記事
インド

シーク教過激派に復活の足音...米英でインドの外交施設が破壊される事件

Fixing the Sikh Problem

2023年4月4日(火)12時50分
ディンシャ・ミストリー(スタンフォード大学フーバー研究所研究員)、スミット・ガングリー(インディアナ大学政治学教授)

インド農民らによる抗議活動は国際社会の支持を獲得し、国外在住のシーク教徒に刺激を与えた。活動はおおむね平和的なものだったが、こうした流れが、新世代の過激派カリスタン運動指導者を生み出しているようだ。

その1人のシンが率いる分離主義組織ワリス・パンジャブ・デ(パンジャブの継承者)が創設されたのは21年。80年代の武力闘争を美化する主張の下、いくつもの暴力事件に関わっているとされる。

インド当局は3月中旬からパンジャブ州で取り締まりに着手し、同組織のメンバーとみられる人物や支持者を拘束。シンの逮捕を目指して、州内全域で道路封鎖やインターネット遮断に踏み切った。ロンドンやサンフランシスコでの抗議活動は、その結果だ。

シーク分離主義運動の復興という可能性を前に、インドと同盟関係にある欧米諸国は困難な課題に直面している。

英米はインド外交施設を破壊した犯人の処罰を約束したものの、当然ながらインド政府はさらに踏み込んだ対応を求めている。ワリス・パンジャブ・デなどのテロ組織指定は歓迎すべき選択肢だろう。

特に、国外のシーク教徒による支援に歯止めをかければ、インド政府の取り組みは強化されるはずだ。インドは欧米に、シーク分離主義組織に対する資金提供阻止への協力や、過激派支援の容疑があるシーク教徒移民の引き渡しを求める可能性がある。

だが、欧米でシーク教徒有権者が持つ政治的影響力を考えると、こうした要請が聞き入れられる見込みは薄い。選挙で選ばれる欧米各国の指導者は、シーク教徒市民の利益に敏感だ。自国内の分離主義運動支持者に厳しい態度を取ることには消極的だろう。

さらに、市民的・宗教的自由が衰退する近年のインドに対して、欧米は懸念を捨てきれない。ヒンドゥー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相と与党・インド人民党(BJP)の下、シーク教徒などの宗教的少数派は、国家による前代未聞のレベルの迫害にさらされている。

そのため、シーク分離主義と闘うインドを支持することは、欧米にとってより困難になっている。モディの「ヒンドゥー・ファースト」姿勢を容認していると見なされたくないからだ。

こうしたなか、インドには慎重な行動が求められている。復活した暴力を迅速に封じ込めようとする取り組みは正当だが、インド政府は法の支配をこれ以上、軽視しない姿勢を示す必要がある。近年、インド警察の残虐行為が相次ぐ状況では、とりわけそうだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中