シーク教過激派に復活の足音...米英でインドの外交施設が破壊される事件
Fixing the Sikh Problem
インド農民らによる抗議活動は国際社会の支持を獲得し、国外在住のシーク教徒に刺激を与えた。活動はおおむね平和的なものだったが、こうした流れが、新世代の過激派カリスタン運動指導者を生み出しているようだ。
その1人のシンが率いる分離主義組織ワリス・パンジャブ・デ(パンジャブの継承者)が創設されたのは21年。80年代の武力闘争を美化する主張の下、いくつもの暴力事件に関わっているとされる。
インド当局は3月中旬からパンジャブ州で取り締まりに着手し、同組織のメンバーとみられる人物や支持者を拘束。シンの逮捕を目指して、州内全域で道路封鎖やインターネット遮断に踏み切った。ロンドンやサンフランシスコでの抗議活動は、その結果だ。
シーク分離主義運動の復興という可能性を前に、インドと同盟関係にある欧米諸国は困難な課題に直面している。
英米はインド外交施設を破壊した犯人の処罰を約束したものの、当然ながらインド政府はさらに踏み込んだ対応を求めている。ワリス・パンジャブ・デなどのテロ組織指定は歓迎すべき選択肢だろう。
特に、国外のシーク教徒による支援に歯止めをかければ、インド政府の取り組みは強化されるはずだ。インドは欧米に、シーク分離主義組織に対する資金提供阻止への協力や、過激派支援の容疑があるシーク教徒移民の引き渡しを求める可能性がある。
だが、欧米でシーク教徒有権者が持つ政治的影響力を考えると、こうした要請が聞き入れられる見込みは薄い。選挙で選ばれる欧米各国の指導者は、シーク教徒市民の利益に敏感だ。自国内の分離主義運動支持者に厳しい態度を取ることには消極的だろう。
さらに、市民的・宗教的自由が衰退する近年のインドに対して、欧米は懸念を捨てきれない。ヒンドゥー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相と与党・インド人民党(BJP)の下、シーク教徒などの宗教的少数派は、国家による前代未聞のレベルの迫害にさらされている。
そのため、シーク分離主義と闘うインドを支持することは、欧米にとってより困難になっている。モディの「ヒンドゥー・ファースト」姿勢を容認していると見なされたくないからだ。
こうしたなか、インドには慎重な行動が求められている。復活した暴力を迅速に封じ込めようとする取り組みは正当だが、インド政府は法の支配をこれ以上、軽視しない姿勢を示す必要がある。近年、インド警察の残虐行為が相次ぐ状況では、とりわけそうだ。