シーク教過激派に復活の足音...米英でインドの外交施設が破壊される事件
Fixing the Sikh Problem
インド当局はカリスタン運動指導者シン(中央)の逮捕を目指している REUTERS
<国内外で存在感を強める新世代の分離主義と拡大する暴力、複雑な対インド事情を抱える欧米は対応に及び腰だ>
イギリスとアメリカで、インドの外交施設がシーク教徒に破壊される事件が起きた。
3月19日、ロンドンにある在英インド高等弁務官事務所とサンフランシスコのインド総領事館前で行われた抗議活動の際、窓ガラスが割られ、施設スタッフ数人が負傷した。
インドメディアによれば、両施設前に集まったのは、過激なシーク分離主義運動を率いるアムリトパル・シンの支持者とみられる。シンには、インド国家安全保障法に基づく逮捕状が出ている。地元パンジャブ州から逃亡したとされるシンを追って、インド警察は逮捕作戦を展開する一方、同州でシンの支持者を拘束している。
インド外交施設の安全が脅かされた今回の事件は、1980年代初めから約10年間、パンジャブ州で吹き荒れたシーク分離主義運動の嵐の復活を意味しているのかもしれない──アナリストの間では、そう危惧する声が上がる。
過激派シーク教徒による暴力は当時、パンジャブ州の外へも拡散した。84年には、インドのインディラ・ガンジー首相が、シーク教徒の警護警官に射殺される事件が発生。85年に起きたエア・インディア182便爆破事件には、シーク教徒組織が関与していた。
当然ながら、インド政府はシーク分離主義運動の再燃を懸念している。テロの暴力を未然に防ぐには、シーク教徒移民が人口にかなりの割合を占める欧米各国にも、脅威を真剣に受け止めてもらう必要がある。インドにとって、これは注意を要する課題だ。
80年代の分離主義運動は、国外在住のシーク教徒の一部にも支持されていた。最終的に、インド政府の厳しい取り締まりによって運動は沈静化し、パンジャブ州はある程度の政治的安定を取り戻した。
一方、オーストラリアやカナダ、英米のシーク教徒移民の間では、出身地パンジャブ州の独立を求める「カリスタン(純粋なるものの国)」運動が存続した。彼らが社会的影響力を拡大するなか、欧米各国はインド政府によるシーク教徒活動家の処遇に懸念を表明するようになっている。
協力を阻む政治的事情
パンジャブ州で再び、社会不安が深刻化したのは2020年のことだ。農業市場自由化を目的に、農家への補助金を打ち切る新農業関連法が成立すると、パンジャブ州のシーク教徒と農民が大規模な抗議デモを組織。1年以上にわたって首都ニューデリー近郊で道路封鎖などを行い、政府は同法の撤廃に追い込まれた。