GDPの1.5%を占める性産業の合法化で、売春大国タイはどう変わるのか?
A GLOBAL CAPITAL OF SEX WORK
首都バンコクから車で2時間ほど、ビーチリゾートとして人気のパタヤはタイ性産業の一大拠点 DAVID SILVERMAN/GETTY IMAGES
<利益は莫大ながら違法。搾取や暴力の標的になり、コロナ禍でも救済の対象外だったセックスワーカーたち。1人の議員が合法化を訴えて立ち上がったが、問題は複雑>
タイ中部のビーチリゾート、パタヤ。ネオンがまぶしい歓楽街にはセックスがあふれている。
性風俗店が立ち並ぶ通りに近いアパートで、アウチャナポーン・ピラサタ(37)は鏡を見ながらプラム色の口紅を重ね塗りし、黒いアイラインを引く。鏡の角には写真が2枚。15歳の少年だった頃の彼女と、女性となった今の姿だ。
アウチャナポーンはトランスジェンダーの売春婦で、17年前から「アナ」と名乗って客を取ってきた。
以前はバンコク郊外の工場で働いていたが、キャバレーの踊り子を目指してパタヤに移った。金欲しさに「その手の」マッサージ店でアルバイトを始めると、いきなり最初の客に売春を持ちかけられたという。
「時給で3000バーツ(約1万1700円)払うと言われた」と、アナは振り返る。「工場に勤めていた頃は月給で6000バーツだった。こうして私はセックスワーカーになった」
タイは世界有数のセックスツーリズムの中心地だ。ただし性労働は裏社会のビジネスだから、GDPに占める割合は正確には分からない。調査会社のハボックスコープは2015年、タイの性産業の経済規模をその年のGDPの1.5%に当たる64億ドルと査定した。
年間数十億ドルを稼いでもタイの性産業は原則として違法であり、国の恥だと批判されている。だが、ある議員が合法化を求める法案を提出したこともあり、最近は公の場でも議論されるようになった。
法案支持者の主張はこうだ。売春を違法にしたせいで、セックスワーカーは基本的な労働者の権利や保護を奪われ、健康上のリスクや嫌がらせや搾取、暴力にさらされやすくなった。それに、違法にしたところで性産業の存在は隠せない......。
タイに行ってセックスワーカーの存在に気付かないのは「ケンタッキー・フライドチキンに行って、フライドチキンが目に入らないようなもの」だと、アナは言う。
セックスワーカーの大多数は女性だ。タイ保健省疾病管理局は17年、14万4000人のセックスワーカーのうち12万9000人を女性と見積もっている。だが、このビジネスの将来を決めるのは男性だ。