GDPの1.5%を占める性産業の合法化で、売春大国タイはどう変わるのか?

A GLOBAL CAPITAL OF SEX WORK

2023年3月8日(水)11時55分
ネハ・ワデカー

21年、タイの国会議員に女性が占める割合は16%だった。サウジアラビア(20%)やアメリカ(28%)に比べて、女性議員は少ない。

合法化の前途は多難だろう。国内の保守派も、人身売買の撲滅を目指す国内外の組織も、売春反対の立場を崩さない。米国際開発庁(USAID)はタイを、人身売買の「発生源であり中継地点であり目的地」と呼ぶ。

性産業はタイ国内だけでなく隣のカンボジア、ラオス、ミャンマーにも女性と子供の虐待を蔓延させると、法案反対派は主張する。

コロナ禍でも救済の対象外

タイの文献に売春の記述が初めて現れたのは14世紀。現在の性産業は20世紀初頭に流入した中国の移民、第2次大戦中の日本兵、ベトナム戦争中のアメリカ兵にサービスを提供することで大きく成長した。

性産業が世界で悪名をはせるにつれ、多くの国民は憤りを募らせた。1960年に売春禁止法が、96年には売春防止・禁止法が制定され、性労働とそこから得られる収入はほぼ完全に非合法化された。

2000年代にアメリカで政府と宗教右派とフェミニストが意外な共同戦線を張ると、風当たりはさらに強くなった。彼らが売春撲滅運動を繰り広げたことで、アメリカでの動きが世界に飛び火した。

タイでは国のイメージアップを図り、性労働に反対する有権者をなだめるために、当局が売春の実態を割り引いて伝える。

1月にはパタヤをパトロールした警察が「違法なセックスワーカー」は1人も見つからなかったと発表し、SNS上で失笑を買った。フェイスブックには「セックスワーカーがいないかどうか、町のあちこちに立っている女の子に聞いてみたらいい」という投稿もあった。

実際には性産業は闇経済を支え、一方で大卒者から貧しい農家の出身まで幅広い背景を持つ女性の生命線となっている。非犯罪化あるいは合法化といった形で法的に承認されればセックスワーカーへの暴力は減り、権利や福祉も提供できると多くの人が考えている。

WHO(世界保健機関)によればコロナ禍で観光業が壊滅的な打撃を受けた20年、タイではセックスワーカーの約91%がロックダウン(都市封鎖)や国境閉鎖により失業した。だが不法就労者の彼らは、政府の救済対象から外れるケースが多かった。

「大勢が家賃を払えず、路上で寝るしかなかった」と、支援団体サービス・ワーカー・イン・グループ(SWING)のパタヤ支部を取り仕切るスパチャイ・スックトンサは言う。

「わずかな金や食事と引き換えにバーの掃除などをし、その日暮らしに耐えた」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中