摘発すべきはギャングとエリート──国家を食い物にしてハイチを「崩壊国家」に追い込む悪い奴らの実態
HAITI’S HOMEGROWN ILLS
首都では銃撃戦が頻発。自警団のメンバーは顔を隠し、アサルトライフルを携行している ENRICO DAGNINOーPARIS MATCH/GETTY IMAGES
<国民の4割が飢餓に陥る深刻な事態のハイチ。国際支援物資を横取りするギャングと結託するエリートが蝕む国家機能。そして、そのハイチから薬物を買うのは先進国...>
カリブ海の島国ハイチが、今度こそ崩壊の瀬戸際に立たされている。
1990年代に民主化されたものの、度重なる軍事クーデターや武装組織の蜂起、外国の軍事介入、大地震、経済危機、コレラ禍と、ありとあらゆる苦難に見舞われ、国連平和維持活動(PKO)が6回も展開されてきた。
それでも、今回ほど多くの危機が一度に降りかかってきたことはない。人口約1180万人の国で約470万人(うち約240万人は子供だ)が深刻な飢餓状態に陥っている上に、再びコレラが全国で流行している。
ハリケーン並みの熱帯性低気圧が襲来したり、新たな地震に見舞われたりと、自然災害も後を絶たない。
だが、国家機能が麻痺するほどの治安の悪化など、現在のハイチを苦しめている問題は基本的に人災だ。
増殖するギャングと、彼らを増長させる政治と経済の腐敗は、ハイチの窮状を計り知れないほど悪化させている。このまま放置すれば、ハイチの治安は底無しに悪化し、国全体をさらに窮地に陥れ、地域の安定さえも揺るがす恐れがある。
ハイチは、ギャングが社会にはびこってきた長い歴史がある。有力政治家や政府の役人や経済界のエリートが、批判者や邪魔者を黙らせ、選挙をゆがめ、関係者に保護を提供するためにギャングを利用してきた。
だが今、この犯罪ネットワーク(約200の武装集団がいる)は大きく拡大して、伝統的なパトロンとの関係を断ちつつある。そして従来の雇われ仕事(脅迫や恐喝)から、麻薬密売やマネーロンダリング(資金洗浄)へと犯罪活動を「多角化」している。
ハイチの最近の食料難とコレラ禍は、ギャングの増加と、それによる社会の混乱悪化と深く関係している。ギャングが自分たちの縄張りでわが物顔に振る舞うため、救援物資が届きにくくなり、燃料の供給が妨げられ、病院や学校や市場といった公共サービスの機能が麻痺している。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)が近く公表予定の評価報告書(筆者はその執筆に関わっている)は、ハイチの犯罪集団の影響力が著しく高まった理由の1つとして、強力な銃器や弾薬の流入と、資金源としての麻薬密売の拡大を挙げている。
これにはエリート層も関わっている。報告書によると、何十人もの政治家や役人が、自らの権力や影響力を強化するために贈収賄、資金洗浄、武器や麻薬密輸に関与している。