最新記事

東南アジア

マレーシア、フィリピンと南シナ海問題で対中強硬姿勢で一致 ミャンマー対応ではASEANに苦言

2023年3月3日(金)14時40分
大塚智彦
マレーシアのアンワル首相(左)とフィリピンのマルコス大統領

マレーシアのアンワル首相(左)とフィリピンのマルコス大統領 REUTERS

<中国をめぐり機能不全に陥ったASEANの進む道は>

マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、3月1日に訪問先のフィリピンのマルコス大統領と会談し、両国が直面する南シナ海での中国の一方的な海洋権益主張に共同で対処することで意見を交わした。

南シナ海に中国が勝手に設けた「九段線」にはマレーシアとフィリピンが領有権を主張する島嶼や環礁が含まれ、このところ活発化している中国の海警局船舶による周辺国の排他的経済水域(EEZ)への侵入や漁船、沿岸警備艇船舶への嫌がらせや進路妨害、レーザー照射などが問題になっている。両首脳は一連の問題に対し、中国へ強い姿勢で臨むことで一致したという。

フィリピンは先に訪比したオースティン米国防長官との間でも、南シナ海での比米合同パトロールの再開で合意しており、こうした同盟国との関係強化で中国に対応しようとしている。

ミャンマー問題も背景には中国が......

一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)の抱えるもう一つの問題、ミャンマーについても中国が大きな影を落としている。それというのも中国がミャンマー軍政の最大の後ろ盾になっており、中国へ配慮するASENAの一部加盟国が、ミャンマー軍政への強硬策に反対しているからだ。

こうしたなか、アンワル首相は、マニラ首都圏ケソン市にあるフィリピン大学で3月2日に講演し、ASEANに対して「不干渉は無関心ではない」とミャンマー問題で一致団結できない現在の状況に苦言を呈した。

マレーシアはフィリピン、シンガポール、インドネシア、ブルネイと並んでミャンマー軍事政権に強硬な姿勢を取り続けている。これが、軍政に融和的なタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムとの間で溝が生じており、域内の連合体であるASEANとしてまとまりを欠く状況が続いている。

ASEANは2023年の議長国が対ミャンマー強硬派のインドネシアになったことから、強力な指導力でミャンマー軍政に現状打開を迫る好機とみられていたが、完全に膠着状態に陥っているミャンマー問題の解決にインドネシアが苦慮。このためアンワル首相率いるマレーシアがイニシアチブを発揮することへの期待が高まり、これを受けて同じ強硬派のフィリピンとの連携強化を模索するため今回のフィリピン訪問となった。

原則違反に沈黙すべきではない

アンワル首相はフィリピン大学から名誉博士号を授与されたことを受けて同大で講演し、最近のASEANの対ミャンマー強硬派と融和派による分断の危機に触れて「不干渉と無関心は違うものである」と述べた。

これはASEANの掲げる原則である「満場一致」と「内政不干渉」を盾にミャンマー問題への積極的関わりに二の足を踏んでいる融和派各国に対し「内政不干渉という原則があるが、そのコンセンサスに基づく意思決定は民主的価値、人権、基本的自由の尊重というASEANの基本的価値観に反する違反については沈黙すべきではない」として、何らかの行動が急務となっているとの立場を改めて示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ関税でナイキなどスポーツ用品会社

ビジネス

中国自動車ショー、開催権巡り政府スポンサー対立 出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中