マレーシア、フィリピンと南シナ海問題で対中強硬姿勢で一致 ミャンマー対応ではASEANに苦言
マレーシアのアンワル首相(左)とフィリピンのマルコス大統領 REUTERS
<中国をめぐり機能不全に陥ったASEANの進む道は>
マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、3月1日に訪問先のフィリピンのマルコス大統領と会談し、両国が直面する南シナ海での中国の一方的な海洋権益主張に共同で対処することで意見を交わした。
南シナ海に中国が勝手に設けた「九段線」にはマレーシアとフィリピンが領有権を主張する島嶼や環礁が含まれ、このところ活発化している中国の海警局船舶による周辺国の排他的経済水域(EEZ)への侵入や漁船、沿岸警備艇船舶への嫌がらせや進路妨害、レーザー照射などが問題になっている。両首脳は一連の問題に対し、中国へ強い姿勢で臨むことで一致したという。
フィリピンは先に訪比したオースティン米国防長官との間でも、南シナ海での比米合同パトロールの再開で合意しており、こうした同盟国との関係強化で中国に対応しようとしている。
ミャンマー問題も背景には中国が......
一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)の抱えるもう一つの問題、ミャンマーについても中国が大きな影を落としている。それというのも中国がミャンマー軍政の最大の後ろ盾になっており、中国へ配慮するASENAの一部加盟国が、ミャンマー軍政への強硬策に反対しているからだ。
こうしたなか、アンワル首相は、マニラ首都圏ケソン市にあるフィリピン大学で3月2日に講演し、ASEANに対して「不干渉は無関心ではない」とミャンマー問題で一致団結できない現在の状況に苦言を呈した。
マレーシアはフィリピン、シンガポール、インドネシア、ブルネイと並んでミャンマー軍事政権に強硬な姿勢を取り続けている。これが、軍政に融和的なタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムとの間で溝が生じており、域内の連合体であるASEANとしてまとまりを欠く状況が続いている。
ASEANは2023年の議長国が対ミャンマー強硬派のインドネシアになったことから、強力な指導力でミャンマー軍政に現状打開を迫る好機とみられていたが、完全に膠着状態に陥っているミャンマー問題の解決にインドネシアが苦慮。このためアンワル首相率いるマレーシアがイニシアチブを発揮することへの期待が高まり、これを受けて同じ強硬派のフィリピンとの連携強化を模索するため今回のフィリピン訪問となった。
原則違反に沈黙すべきではない
アンワル首相はフィリピン大学から名誉博士号を授与されたことを受けて同大で講演し、最近のASEANの対ミャンマー強硬派と融和派による分断の危機に触れて「不干渉と無関心は違うものである」と述べた。
これはASEANの掲げる原則である「満場一致」と「内政不干渉」を盾にミャンマー問題への積極的関わりに二の足を踏んでいる融和派各国に対し「内政不干渉という原則があるが、そのコンセンサスに基づく意思決定は民主的価値、人権、基本的自由の尊重というASEANの基本的価値観に反する違反については沈黙すべきではない」として、何らかの行動が急務となっているとの立場を改めて示した。