ニュース速報
ビジネス

アングル:トランプ関税でナイキなどスポーツ用品会社に打撃も、ベトナムに生産依存

2025年04月02日(水)16時04分

 ブランド再生と売上反転に取り組む米スポーツ用品大手ナイキにとって、ベトナムからの輸入に対する米国の関税は新たな試練となりそうだ。写真は、ロンドンのウェンブリー・スタジアム近くのナイキショップの入り口。2024年3月、ロンドンで撮影。Action Images提供(2025年 ロイター)

Nicholas P. Brown Helen Reid

[ニューヨーク/ロンドン 1日 ロイター] - ブランド再生と売上反転に取り組む米スポーツ用品大手ナイキにとって、ベトナムからの輸入に対する米国の関税は新たな試練となりそうだ。

トランプ米大統領は2日に、国内生産を促進し、他国に米国製品をより多く購入させることを目的とした新たな関税の対象国と製品を発表する見込みだ。米国との貿易黒字が1235億ドル(約18兆5千億円)あるベトナムは主な標的になるとみられている。

ナイキは、ベトナムの生産拠点に依存するスポーツウェアブランドの一つだ。関税が引き上げられれば、コスト上昇分を吸収するか、在庫一掃のために一部商品を割引販売している中で、価格を引き上げることを余儀なくされる。

ナイキの年次報告書によると、同社は2024年度に靴の50%と衣料品の28%をベトナムで生産。ライバルのアディダスの依存度はやや低く、靴の39%、衣料品の18%をベトナムで生産している。

デラウェア大学のシェン・ルー教授(ファッション・アパレル研究科)が1月の貿易データに基づいて算出したところ、ベトナム産の靴に対する米国の平均関税率は13.6%、衣料品に対する関税率は18.8%となっている。

「もし関税が拡大されれば、ナイキは問題を抱えることになる」と投資評価機関モーニングスターのアナリスト、デビッド・シュワルツ氏は語った。ナイキとアディダスだけではない。アパレル各社が中国への依存を減らそうとする中、ベトナムはハイテクのランニングシューズ、スポーツウェア、アウトドア衣料品の生産拠点となってきた。

ルルレモン、コロンビアスポーツウェアおよびサロモンやアークテリクスを所有するアメアスポーツも、最大の製造国はベトナムだ。

しかし、今回の関税は特にナイキにとって死活的に重要なタイミングに重なった。同社は近年、オンやホカなど、より斬新で革新的とされる競合他社に市場シェアを奪われており、先月の四半期決算発表では、最高財務責任者のマット・フレンド氏が来四半期も引き続いての収益減少を予想しているからだ。

ナイキ株を保有するコロンビア・スレッドニードル・インベストメンツのシニア株式アナリスト、マリ・ショア氏は、収益の見通しは現行の関税を織り込んだものだと指摘する。「だが、状況が悪化したらどうなるかは分からない」

<衝撃に備える業界>

より小規模で新興のスポーツウェアブランドの中には、ベトナムへの依存度がさらに高いブランドもある。急成長中のランニング用アパレルブランドの「オン」は、2024年にシューズの90%、アパレルとアクセサリーの60%をベトナムから調達した。

オンの靴は元々高価で、1足130ドルから330ドルで販売されている。同ブランドの最高執行責任者サミュエル・ウェンガー氏は、関税は価格を決める際に考慮する要素の一つだとした上で、「当社の高級ブランドには、慎重に価格設定を調整する能力がある」とロイターに語った。

市場調査会社サーカナの靴業界のアナリスト、ベス・ゴールドスタイン氏によると、米国のスニーカーの平均価格は2019年以来25%上昇しており、その一因は生産コストの上昇だ。サーカナの消費者追跡サービスによると、2021年以来、米国のランニングシューズの売上は16%増加し、74億ドルに達した。しかし、最近の米国の消費者信頼感は4年ぶりの低水準に達しており、さらなる価格上昇は受け入れられ難い可能性があるという。

ベトナムから生産拠点を移転するのも簡単なことではない。カンボジアやインドネシアなど他の東南アジア諸国も関税に直面する可能性があるほか、これらの国でもすでに生産コストが上昇し始めている。

香港のアパレル・アクセサリー調達会社MGFソーシングのCEO、マイケル・イー氏は、カンボジアの工場は中国やベトナムから生産拠点を移そうとしている小売業者からの注文が増えているため、価格を5─10%値上げしていると述べた。

ナイキ、アディダス、アメアスポーツは、ベトナムの関税に関するロイターの質問に対してコメントを控えた。ルルレモンとコロンビアスポーツウェアはコメント要請に返答しなかった。

専門家によれば、朗報としては、ベトナムからの輸入品、特に衣料品に対する関税は中国ほど高くならない可能性が高いということだ。

ベトナム政府の指導者たちは、トランプ大統領と良好な関係を築こうと、米国からの輸入増、関税引き下げのほか、トランプ氏顧問であるイーロン・マスク氏が所有する衛星会社スターリンクがベトナムでインターネットサービスを提供することを許可するなど、いくつかの措置を講じている。一方、トランプ氏がオーナーの事業グループ、トランプ・オーガニゼーションは、ベトナムでホテル、不動産、ゴルフ場プロジェクトなど、総額数十億ドル規模となり得る投資を検討している。

ベトナム株重視のフロンティア・マーケット・エクイティ戦略を運用するティー・ロウ・プライスのポートフォリオ・マネジャー、ヨハネス・レフストランド氏は、「ベトナムは地政学的なゲームを非常に巧みにプレイする能力があることを証明した」と語った。

第1期のトランプ政権で商務長官を務めたウィルバー・ロス氏は、トランプ大統領はベトナムと概ね良好な関係を築いており、一般市民に影響が出るようなレベルの関税でベトナムを厳しく攻撃する理由はないと語る。

「人々は衣料品のコスト増に敏感だ。頻繁に購入するからだ」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ1679ドル安 トランプ関

ワールド

関税に対する市場の反応、想定されていた=トランプ氏

ワールド

米「NATOに引き続きコミット」、加盟国は国防費大

ビジネス

NY外為市場=ドル対円・ユーロで6カ月ぶり安値、ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中