マレーシア、フィリピンと南シナ海問題で対中強硬姿勢で一致 ミャンマー対応ではASEANに苦言
マレーシアは反軍政勢力招待も模索
またアンワル首相は「ASEANは現在一連の会議や首脳会議から軍政代表を排除することぐらいしか具体的対策を講じていない」と述べて、手をこまねいている状態の強硬派にも苦言を呈した。
マレーシアは2021年2月のミン・アウン・フライン国軍司令官によるクーデター直後から軍政に厳しい姿勢を表明し、ASEANの会議に軍政代表ではなく、民主主義復活を求めて抵抗を続けるアウン・サン・スー・チーが率いた民主政府や少数民族関係者などからなる「国民民主連盟(NLD)」の関係者を招請するべきだとの強硬策を提示した。さらに実際にマレーシアのサイフディン外相(当時)がNLD関係者と接触したこともあったという。
このNLD関係者のASEAN会議への参加というマレーシアの提案は融和派などの反発でコンセンサスを得ることができず現在に至るまで陽の目をみていない。
つまりASEANは軍政であれNLDであれ「ミャンマー代表」の不参加が続いており、当事者を欠いた場での対応協議が続いており、それが事態の膠着状態の一因となっているとの見方もある。
新しいアプローチ模索の動き
アンワル首相はマルコス大統領との会談でミャンマー問題について「危機打開のため新しいアプローチを模索するべきだ」と述べたとしているが、この「新しいアプローチ」が具体的になにを示しているのかは明らかになっていない。
インドネシアが現在進めている打開策は、2021年4月にミャンマー軍政のミン・アウン・フライン国軍司令官も参加したASEAN緊急首脳会議(インドネシア・ジャカルタで開催)で合意した議長声明「5項目の合意」に基づき、その履行を軍政に迫るというものだ。しかしこのうち「武力行使の即時停止」と「全関係者とASEAN特使の面会」に2項目に関して軍政が強硬に反対しており今日に至るまでなんら進展をみせていないのが現状だ。
マレーシアのサイフディン前外相はASEAN外相として初めて「5項目の合意」の破棄を含めた見直しを提案したこともある。このためアンワル首相の「新しいアプローチ」は、インドネシアがこだわる「5項目の合意」にはもはや依拠せずにミャンマーとの打開策を模索する方法を指している可能性もある。
アンワル首相はフィリピン大学での講演をフィリピン独立運動の英雄ホセ・リサールの言葉を引用して締めくくった。
「正義は文明的人間の最も大切な美徳である。正義は弱き者の間に不正義が蔓延する野蛮な国々を抑え込む」
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など