ロシア侵攻から1年 ゼレンスキーが見せた「想定外」の徹底抗戦
SNSで世界を味方にしたゼレンスキー
ロシアが侵攻を開始した直後、ウクライナの命運が風前の灯火となる中で、ゼレンスキー大統領はスマートフォンによる自撮り映像で、自分もウクライナも戦いを止めないと宣言した。
「ヤ・トゥート」と、ゼレンスキー氏は言った。「私はここにいる」という意味だ。
ゼレンスキー氏が開戦以来続けているソーシャルメディア上の「攻勢」はここから始まった。依頼、「私たちは勝つ」というシンプルなメッセージを発信し続けている。
ロイターの記者は、前線に近い地下壕で、ゼレンスキー氏が配信する年頭演説を見たウクライナ軍兵士が涙を流すのを目撃した。
「今年は、ウクライナが世界を変える年だ。世界はウクライナを発見したのだ。私たちは降伏しろと言われた。だが、私たちは反撃することを選んだ」と、ゼレンスキー氏は語りかけた。
対照的に、プーチン氏は不機嫌で孤立しているように見えることが多く、大統領府にこもって西側諸国やウクライナに脅しの言葉を発信し、演出されたイベントを除けば公の場に姿を見せることもめったにない。
街を見下ろす大統領府でゼレンスキー氏に会うため、キーウには他国の首脳や要人、著名人が長時間の電車移動もいとわずやってくる。他国からの支援も何十億ドルも流れ込んでいる。
側近らによると、ゼレンスキー氏が侵攻開始後にこなした他国首脳や国際機関のトップとの電話会談は377回、各国議会や他国市民の前での演説は41回、会合出席は152回に及び、それ以外にも多数の演説を行っている。
国内政治は「休戦」
ゼレンスキー氏は、製鉄の街クリブイリフでユダヤ人家庭に生まれた、ロシア語話者のウクライナ人だ。キャリアの出発点は俳優だった。
政治腐敗にうんざりしていたウクライナ国民の心情に沿ったテレビドラマ「国民の僕(しもべ)」シリーズの主役を演じ、知名度を上げた。
このドラマでゼレンスキー氏は誠実な学校教師を演じた。教室で政治腐敗への不満をぶちまけた様子がネットで人気を集め、大統領となって、腹黒い政治家やビジネスマンを出し抜く活躍を見せるという筋書きだ。
2019年、現実がドラマを模倣することになった。ゼレンスキー氏は、腐敗根絶を選挙公約に掲げて大統領に当選。選挙運動はソーシャルメディアへのユニークな投稿を武器にしていた。それは、戦火の下で同氏が展開する活発なオンライン活動の予兆だった。
ロシアによる侵攻開始直後に撮影された動画で、ゼレンスキー氏は、情報機関からの報告として、ロシア政府が同氏を第1の標的、妻オレナ・ゼレンスカさんと2人の子どもを第2の標的と宣言したと語った。