ロシア侵攻から1年 ゼレンスキーが見せた「想定外」の徹底抗戦
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その頑張りはいつまで続くのか。ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領(写真)は毎晩、戦意高揚に向けたビデオ演説を配信している。ヘルソンで2022年11月撮影。ウクライナ大統領府提供(2023年 ロイター)
その頑張りはいつまで続くのか。ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩、戦意高揚に向けたビデオ演説を配信している。侵略者ロシアとの戦いの渦中にある将兵らを鼓舞し、世界の関心を自国の苦境に繋ぎ止めようと努めている。
ゼレンスキー氏はこれまで、西側諸国から様々な武器供与を勝ち取ってきた。当初西側は、殺傷能力のある兵器は何であれ供給しない構えだったのが、最近ではウクライナによる反撃を後押しし得る主力戦車の提供を決断。タブーは次々に打破されてきた。
2019年に就任した現在45歳のゼレンスキー氏に、諦める気配はまったくない。
だが、それは相手も同じだ。2022年2月24日にウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始したロシアのプーチン大統領は、長期戦に備えているように見える。
大化けしたゼレンスキー
ロシア軍部隊が国境を越えてなだれ込んで来たとき、ゼレンスキー大統領の「大化け」を予想した人はほとんどいなかった。テレビで活躍するコメディー俳優出身のゼレンスキー氏だが、当時は政治腐敗のまん延と経済の不振、ガバナンスの欠如に対する国民の怒りが高まり、支持率は低下していた。
侵攻前、ロシアがウクライナとの国境に部隊を集結さると、ウクライナから退去しようとする諸外国の大使館や企業が相次いだ。ゼレンスキー大統領はウクライナ経済に打撃を与えているとしてこうした動きを批判しており、少なくとも表向きは本格的な侵攻の可能性は低いと考えているように見えた。
「ゼレンスキー」はいまや世界中で誰もが知る名前となり、ウクライナの抵抗の象徴となっている。国内では支持率が約3倍に上昇し、異例の安定を見せている。
厳重に警備された大統領府で初対面の来客を迎えるときの気さくで温和な人柄に加え、王族に接するときも前線の兵士を視察するときも同じカーキ色の軍用Tシャツ姿で通すゼレンスキー氏の姿は、安定感と不動の意思の強さを印象付けている。
とはいえ、課題はまだ山積している。ロシア軍を押し戻すためには西側の新鋭戦闘機が必要だと主張しているが、まだ確保できていない。欧州連合(EU)早期加盟という公約も実現していない。軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への加盟も、実現の可能性は見えていない。
ときおり目の下に隈を作り、疲れた表情を見せるとはいえ、ゼレンスキー氏に気力が衰えはみられない。1月には、政治腐敗スキャンダルに対する市民の怒りを鎮めるべく、内閣改造に踏み切った。
キーウの政治アナリスト、ボロディミル・フェセンコ氏は、「ゼレンスキー氏は多くの人々を驚かせた。彼のリーダーシップを過小評価していた」と述べ、プーチン氏も相手を見誤ったと語る。
「プーチン氏は本格的な戦争ではなく、限定的な特別作戦のつもりで準備していた。ゼレンスキー大統領とウクライナ軍は弱体で、長期的な抵抗は無理だろうと考えていたからだ。その判断は誤りだった」