最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ避難民2000万の悲と哀──将来を見通せない人々...1年目の本音は

No Place Like Home

2023年2月28日(火)14時10分
マイケル・ワシウラ(オデーサ在住ジャーナリスト)

「それから4カ月、私はポーランドから毎日アンドレイに電話して、泣きながら『家に帰りたい』と訴えた。でも夫はいつも、『子供たちの安全のためだ、そこにいてくれ』と言った」

だが8月までには東部ドンバス地方への攻撃が一時的にやみ、ウクライナ軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS)を使った攻撃でロシア側の補給線が大混乱に陥った。ミコライウはまだ攻撃下にあったが、もう家族が離れて暮らすほどのリスクはなくなったように思えた。

そこでアンドレイは、再び車に乗り込んでポーランド国境に向かった。今度は家族を連れ帰るためだ。11月半ばにはウクライナ軍がヘルソンを奪還し、ロシア軍はロケット砲の射程圏外へ退いた。それで、一家はミコライウの自宅に戻ることができた。

「年明け以降、夜になると窓に明かりのともる家が、以前よりもずっと増えた」と、ミコライウの自宅に戻った今、ナスティアは記者に語った。

「本当にウクライナで暮らしたい人は、必ず戻ってくる。この国で運がなかった人や、よその国への移住を考えていた人は、そのままヨーロッパにとどまればいい。私たちはこの国で暮らしたいと思う。でも、みんなが同じ選択をするわけではない」

230307p30_NMN_04.jpg

ミコライウの自宅アパートの近所にある破壊されたホテルを見つめるナスティアと子供たち MICHAEL WASIURA

もちろん、自分の国で暮らしたいと願う全てのウクライナ人に、あの日以前に住んでいた場所に戻るという選択肢があるわけではない。

いまヨーロッパ各国にいるウクライナ難民は約800万。その多くには、例えばベルリンやブリュッセルにあるアパートの一室でお茶を飲みながら、「比較的安全」とされるキーウやチェルニウツィーに戻る片道切符の料金を調べ、帰国の費用対効果をはじくという、ささやかな贅沢があるかもしれない。

だが1年前までは誰も知らなかったけれど今では世界中の人が知っている中規模都市(マリウポリやヘルソン、セベロドネツク、あるいはバフムートなど)の出身者たちに帰還という選択肢はない。

国内に残る約600万の避難民も、たいていは後者の部類に属する。わりと豊かなEU圏の国で住宅補助や現金支給、医療や教育などの手厚いサービスを受けている同胞と違って、ウクライナ国内の人々には月額50ドル程度の公的支援金があるだけだ。

足りない分は、国内外の支援団体のネットワークに頼るしかない。激戦地にいる一般人を救出し、彼らに住む場所や衣服、食料を提供し、再出発の機会を提供しているのはボランティアの人たちだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

不確実性の「劇的な高まり」悪化も=シュナーベルEC

ワールド

マスク氏、米欧関税「ゼロ望む」 移動の自由拡大も助

ワールド

米上院、トランプ減税実現へ前進 予算概要可決

ビジネス

英ジャガー、米国輸出を一時停止 関税対応検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ使い回しをやめるまで
  • 4
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 5
    フジテレビが中居正広に対し損害賠償を請求すべき理由
  • 6
    ユン韓国大統領がついに罷免、勝利したのは誰なのか?
  • 7
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 8
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 9
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中