最新記事

中国

留学中の中国人学生も怯える、中国共産党の監視の目...国外にいても党の支配からは逃れられない

NOWHERE TO HIDE FROM THE CCP

2023年2月24日(金)13時40分
トム・カネッティ(ジャーナリスト)

ヒューマン・ライツ・ウォッチは21年の報告書で、中国共産党がオーストラリアの大学に手を回している実態を指摘した。「授業料を全額負担する留学生への過度の依存と、中国人留学生および中国関連の研究者の学問の自由をめぐる問題に大学が目をつぶっている状態の間には明確な相関がある」と、報告書の著者ソフィー・マクニールは語る。中国人留学生への過度の依存は、学校側の検閲や学生の自己検閲を助長するだけでなく、留学生仲間による民主派学生への嫌がらせや脅迫の原因にもなっているという。

中国共産党は留学生を「新たな重点」と位置付け、在外中国人の非公式ネットワークを介して彼らに影響を及ぼそうとしている。その結果、留学生たちは国外にいるにもかかわらず、党の支配から逃れられない。

オーストラリアの中国人学生学者連合会(CSSA)は中国大使館と緊密につながり、大使館から資金援助も受けている。中国当局の強力な情報ネットワークとして機能しているため、民主派学生は恐怖心からCSSAに近づかない場合が多い。

一方、ニューサウスウェールズ大学のように圧力に抵抗し、民主派学生の権利を守ろうとする大学もある。同大学は最近、キャンパスへの外国からの干渉に対抗する新たな枠組みとして、外国政府が絡む嫌がらせなどを匿名で通報できるポータルサイトを立ち上げた。

オーストラリアではこの1年、中国の民主化を求める運動が活発化しており、ゼロコロナ政策だけでなく、党による国家統制と監視への広範な抗議運動が広がっている。そうした活動に参加し、自らの政治的見解を明らかにする留学生も増えている。

だが、抗議運動への参加は身元を隠していてもリスクが高く、公然と異議を唱える者にはさらに厳しい現実が待ち受けている。

例えば、シドニーの大学院で学ぶ著名フェミニストでLGBTQ活動家の中国人女性。「ホラー・ズー」の仮名で活動する彼女は当初、抗議運動の場でマスクをかぶっていたが、天安門事件31周年の2020年にマスクを取って顔をさらした。以来、彼女は表現の自由とゼロコロナ政策撤廃を求める抗議活動をシドニーで何度も組織してきた。

オーストラリアでは、こうした行為は言論の自由として認められた合法的な活動だ。しかし中国当局は中国で暮らす彼女の家族を呼び出し、父親に娘との連絡を絶つと誓約する書類に署名させた。

帰国後に拘束された仲間も

「家族は真夜中に警察に連行され、父は帰宅を許されなかった」と、ズーは語る。「署名しなければ、家族は懲役10年の刑を下され、年金も取り消されるだろう」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中