最新記事

南シナ海

比マルコス大統領が中国大使召還 艦船へのレーザー照射問題で親中路線転換へ

2023年2月15日(水)20時00分
大塚智彦

比EEZ内でレーザー照射

レーザー照射は2月6日に行われた。フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある「シエラマドレ」というフィリピン海軍の座礁艦に比軍兵士が駐留しており、ここへ食料や生活物資を補給しようと向かっていた沿岸警備隊の艦艇「マラバスクア」に対し、中国海警局船舶「5205」が約7,4キロ離れた位置から行ったものだ。

「5205」はその後も「マラバスクア」の右舷後方約130メートルに接近して危険な航行を繰り返して妨害。「マラバスクア」は進路変更を余儀なくされアユンギン礁から離れたという。

比は今後米国との関係強化で対応へ

比外務省は重ねて「中国海警局船舶の行動はフィリピンの主権と安全保障に対する重大な脅威であり、我が国は自国のEEZ内で合法的に活動する権利を有する」と表明して中国のレーザー照射を改めて批判した。

外務省による中国政府への批判に加えて、マルコス大統領自身が中国大使を召還してまで遺憾の意を直接伝えた背景には、中国に対するフィリピン社会や国民の強い反発があり、比政府とマルコス大統領が世論の動向を重視していることがあるのは間違いないとみられている。

今後南シナ海での緊張がさらに高まる可能性もあり、マルコス大統領としてはレーザー照射問題でフィリピンの立場を支持することを表明していた米政府との関係強化を進めながら厳しい対応を続けることになりそうだ。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

=>>中国海警局「5205」によるレーザー照射の映像はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、加・メキシコ製自動車への関税導入30日延期を検

ワールド

ゼレンスキー氏、米との協力に「前向きな進展」 具体

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、2月53.5に上昇 価格

ワールド

カナダ、WTOに米との協議を要請 「不当な関税」巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行為」「消費増税」に等しいとトランプを批判
  • 3
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 4
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 10
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中