少女は赤ん坊を背負いながらコバルトを掘る──クリーンエネルギーの不都合な真実
CLEAN ENERGY’S DIRTY SECRET
人間も大地も破壊され尽くす
プリシーユは小さな小屋に1人で暮らしていると話してくれた。以前は夫と一緒にこの採掘地で働いていたが、夫は1年ほど前に呼吸器の病気で亡くなった。夫も自分も子供が欲しかったが、2回妊娠して2回とも流産だったという。
「赤ちゃんを奪った神様に感謝している」と、彼女は言う。「こんな所で生まれてもいいことないもの」
夕方までに掘り手たちへの取材を終え、採掘地の入り口に戻った。そこにいる仲買人はれっきとした公認の取引業者だろうと思った。何なら政府支給の制服まで身に着けているかもしれない、と。
だが彼らはジーンズにシャツ姿の若い男たちだった。それでも泥だらけの掘り手とは違い、身なりは清潔でパリッとしている。
小型トラックで袋を運ぶ仲買人もちらほらいたが、彼らの足はたいがいバイクだった。掘り手が運んできた袋の中身をざっと見て、言い値で買う。掘り手に値段の交渉権はない。フィリップによると、同じ質、同じ量でも、女性の採掘者は常に男性よりも安く買いたたかれるという。
イリと名乗る仲買人はこの商売を始めるまで、ザンビアとの国境に近い主要都市ルブンバシでアフリカのテック大手アフリセルの携帯電話を売っていたという。いとこの勧めで営業許可を取得し、仲買人になった。許可証取得には150ドルかかり、毎年更新しなければならない。
携帯電話を売っていたときに比べて、「今は2倍か3倍稼いでいる」と、イリは胸を張った。許可証がどんなものか見せてもらえないかと言うと、彼は事もなげに「2年前に期限切れになった」と答えた。
「袋を運んでいるときに警官に止められて、許可証を見せろと言われたらどうする?」
「罰金を払うまでさ。10ドルくらいかな。だけど、そんなことはめったにない」
ほかにも2、3人、仲買人に話を聞いた後、暗くなる前にもう一度見ておこうと採掘地に引き返した。少女が1人、ボタ山の上にたたずみ、腰に手を当てて荒地をにらんでいた。かつては見上げるような大木が立ち並んでいた場所だ。
腰に巻いた金色と藍の布が風に激しくはためき、少女は人間と大地が破壊され尽くした痕跡を真っすぐ見据えていた。
地平線の向こうの別世界では、人々がいつものように朝を迎え、スマホをチェックしているだろう。その電池に使われているコバルトを手で掘り、命を削っている人たちはスマホを目にしたことがない。