最新記事

北欧

ウクライナ戦争で状況一変、ドイツさえ手玉に取る「再エネ先進国」ノルウェーの野心

A Renewable Energy Superpower

2023年2月8日(水)17時24分
ブレット・シンプソン
独ハベック経済・気候保護相とノルウェーの閣僚

(左から)ノルウェーの水素企業NELを訪問した同国のオースラン石油・エネルギー相、ハベック、同国のベストレ貿易産業相(1月6日) OLE BERG-RUSTENーNTBーREUTERS

<潤沢な天然ガス資源を輸出して儲け、再エネはもっぱら国内消費に回す、したたかなこの国が水素普及で果たす役割>

新年早々、ドイツのロベルト・ハベック副首相兼経済・気候保護相は雪深いノルウェーの首都オスロに赴いた。バルト海に巨大なパイプラインを建設する計画をまとめるためだ。

いや、ロシア産の天然ガスを運ぶパイプラインではない。緑の党に所属するハベックが欲しかったのは、北欧のエネルギー大国ノルウェーから自国へ年間400万トンの水素燃料を運ぶ総延長750キロのパイプライン。完成予定は2030年とされる。

「ノルウェーは今もわが国への最重要なエネルギー供給国であり、今後もそうであり続ける」とハベックは言った。「それが脱炭素社会への道だ」

ロシアがウクライナに侵攻して以来、ノルウェーは欧州諸国にとって、ロシアに代わる良心的なエネルギー供給源となった。天然ガスでは文句なしの1位、石油でもトップクラスだ。

昨年3月、ノルウェーのヨーナス・ガール・ストーレ首相との共同記者会見に臨んだデンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、欧州諸国の指導者たちが抱く切実な思いを率直に語った。「エネルギーは、ロシアではなくノルウェーからもらいたい」と。

だが戦闘の長期化でエネルギー価格が高騰すると、ノルウェーだけが潤うのはおかしいという批判が出た。実際、ノルウェーの石油産業は昨年だけで1210億ユーロも稼いでいる。侵攻前の21年は約270億ユーロだった。

そんなノルウェーに対し、その「超過利益」をウクライナの再建に投じるよう求めたのはポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相。ノルウェー側は無視したが、それでもエネルギー政策の方向性を転換し、今後はほかの欧州諸国が脱炭素社会へ移行するのを支援するために自国の資源を役立てると表明した。

「今度の戦争でノルウェーは気付いた」と言ったのは、ノルウェー国際情勢研究所(NUPI)エネルギー研究センター長のロマン・バクルチュク。「この国が、次なるクリーンエネルギーの超大国となり得るという事実に」

緑の水素と青の水素

実際、ノルウェーは以前から化石燃料で稼いだ資金を「緑の投資」に振り向けてきた。早くも1980年代前半には、国内の再生可能エネルギー供給体制を整えるために巨額の投資を始めている。

今や国内で消費する電力の98%を再生可能エネルギー(再エネ)が占めている。その約9割は水力発電だが、90年代からは陸上・洋上風力発電に莫大な投資をし、二酸化炭素の回収・貯留にも巨額の資金を注いできた。再エネのインフラ整備を急ぐ欧州諸国にとって、ノルウェーは模範的な大先輩と言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

グリーンランド、米の将来に関わる可能性 安全保障上

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と電話会談の用意 「主権国家

ワールド

ウクライナ鉱物協定、近く署名へ 発電所の米所有巡り

ワールド

ロシア・ウクライナ、攻撃の応酬 「石油施設で火災」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 7
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 8
    トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒.…
  • 9
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 10
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中