ドミニク・チェンが語る、2050年のSNS・コミュニケーション・自律分散
THE BEST WAY IS TO INVENT IT
他者との関係性に即して言うと、家族は一生一緒にいけなければいけないという伝統的価値観から自由になったり、パワハラ上司の元を飛び出して即刻別のDAOに移ったりと、自分ではどうしようもない状況から脱出できてよりよい生き方を探せることが究極的には自律分散の目指す価値観だと思います。
わたしにとっての自律分散とは「それぞれが勝手に生きて他者のことは知らない」というリバタリアン志向の意味ではありません。「自分と同様に、他者も自律的に生きられるように、協調しながら生きる」という意味で解釈しています。
別の言い方をすれば、自己と他者のウェルビーイングが両立するためにできることが大事なのです。社会構造としてのジェロントクラシーの問題を考える上でも、高齢者のウェルビーイングを犠牲にして、若年世代のみを優先するということがあってはなりませんし、その逆もまた然りです。
神経接続に対する期待論にしてもそうですが、簡単な問題解決を約するテクノロジー幻想からそろそろ脱却する頃合いではないかと思います。それは世界を「問題」と「解決」によって捉える思考そのものから離れるという意味でもあります。アテンション・エコノミーにおいては、簡単な結論に飛びつこうとしてしまいがちですが、異なる価値観を持つ他者と生きていく上では、共に変化していくことを受け容れる観点が大事なのだといえます。
――良き未来のための直近の課題はなんでしょう?
いかにSNSやウェブサービスへの中毒性を元にした独占を減らしていくかが大難題です。YouTubeの自動再生機能が次々と問題のある動画を視聴者に勧めることで陰謀論が爆発的に広がったことに象徴されるように、スマホに代表されるテクノロジーはもはや便利で暮らしを豊かにする道具ではなくなっています。
その延長線上で最近は「卒業できるテクノロジー」というコンセプトを考えています。使っている人の成長や学習に伴走してくれ、支援が要らなくなる時には手放せるような技術設計のイメージです。そこまでデザインしないと、今後新しいものが出てきても同じことの繰り返しになるのではないでしょうか。
「未来を予測する最善の方法はそれをつくること」と計算機科学者でパーソナルコンピューターの父、アラン・ケイは言いました。互いの差異を受け止め合いながら、ひどい未来を予測することに時間を費やすよりは望ましい未来を自分たちでつくろう、という機運が社会に広がるといいと思います。
ドミニク・チェン(情報学研究者)
1981年生まれ。博士(学際情報学)、早稲田大学教授。コミュニケーションの観点から、微生物と会話できる「ぬか床ロボット」の研究開発、遺言の執筆プロセスを集めたインスタレーション制作などを通じて技術と人間の関係性を研究している(撮影:望月孝)。