最新記事

ミャンマー

あるミャンマー脱走軍医の告白──酒と麻薬の力を借りて前線に赴く兵士とその残虐性

A GRISLY CONFESSION

2023年1月26日(木)13時45分
増保千尋(ジャーナリスト)
ミャンマー軍

脱走した軍医は命を懸けてミャンマー軍の腐敗ぶりを告発した CHIHIRO MASUHO

<軍に洗脳され、アルコールと薬物に依存する兵士は、普通の精神状態ではできないような残虐行為にも手を染める。軍による兵士の搾取も横行している>

ミャンマー(ビルマ)で2021年2月1日に軍事クーデターが起きてから、間もなく2年。同国では、国軍と少数民族武装勢力、民主派の軍事部門である国民防衛隊(PDF)による内戦が続く。

市民に対する国軍の苛烈な弾圧が頻繁に報じられ、民間人を巻き込んだ空爆や村落への放火、女性や子供に対する銃撃など、国際人道法を無視した暴力が横行している。

なぜ国軍兵士は、これほどまでに無辜(むこ)の市民に残虐になれるのか。

クーデター後に国軍を脱走し、今はタイ領内のミャンマー国境付近で潜伏生活を送る元軍医(30代前半)に昨年12月、現地で取材。国軍内部で体系化されているという洗脳の手法や、兵士に対する搾取、国軍総司令官ミンアウンフラインの知られざる素顔を聞いた。(聞き手はジャーナリストの増保千尋)

◇ ◇ ◇


――どこの部隊に所属していたのか。

軍医として医療部隊に所属していた。専門は小児科で、国内各地にある軍病院に勤務していた。16歳で軍医学校に入学した。

――なぜ脱走したのか。

私は国軍にいながら、10年以上も民主主義を支持してきた。国軍もいつか、国と民衆を守る、真の意味での軍隊になると信じていた。

だが、私の夢は軍事クーデターが起きてついえた。クーデター後、私はすぐに脱走計画を立てた。

230131p38_MMG_02.jpg

首都ネピドーを制圧した国軍(2021年2月) AP/AFLO

逃走ルートを決め、信頼できるドライバーを探し、両親を安全な場所に移した。準備が終わるまでに1カ月を要した。21年の3月に軍を脱走した。

決行の日、買い物があるので夜外出すると上官に告げ、働いていた軍病院を抜け出した。上官は何も気が付いていないようだった。その後は国中を転々とし、最終的には故郷の町で借りた小さなアパートに隠れた。

今はタイのミャンマー国境沿いの町に身を潜めながら、国軍を脱走して「市民不服従運動(CDM)」に参加したいと願う兵士たちを支援している。

軍からの脱走は、捕まれば7、8年は投獄される重罪だ。CDMに参加すれば、その期間は10年から15年に延長される。私のようにほかの脱走兵を助けていたら恐らく終身刑か死刑だろう。捕まれば弁護士を頼むこともできないから、軍は罪と刑期を好きなだけ私に科すはずだ。だから私は、非常に周到に逃げるための準備をした。

脱走をした当時、妻は妊娠していた。潜伏生活をしていた21年7月頃、ミャンマーを新型コロナの第3波が襲った。私たちは2人とも8月にコロナに罹患した。妻はなかなか回復せず、1カ月間必死に看病したが妊娠9カ月のときにおなかの子供と共に亡くなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中